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「向かいに家もないし大丈夫だよ」と、言ったでんこさんは私が部屋の中が見えてしまうことを心配していると勘違いしたようだ。
確かに、普通ならばそこを気にするかもしれない。
「いや、光過敏なもので」
「何だね、それ?」
「光の刺激によって、脳が疲れちゃうんですよ」
「そりゃあ大変だね」
たるんだ口をへの字に曲げて、心底ウンザリした顔をするものだから思わず苦笑する。
私も今、自分自身に同じ顔をしたい気分だ。
「これ、適当に使っておくれ」
持ってきた新聞紙を手渡すと、でんこさんはすぐに一階の店へと戻って行った。
客がいなくとも店番は必要なのだろう。それか、これから夕方になるにつれて客足が増えるのかもしれない。
とりあえず私は窓にガムテープで新聞紙を貼ると、畳の上にゴロンと横になる。
空き部屋とはいえでんこさんが掃除をしているのだろう。埃の臭いはしない。懐かしい畳の匂いに目を閉じると、心も脳も落ちつく。
暫く微睡んでいると、でんこさんに呼ばれた。一階の店に行くと、テーブルの隅には二人分の食事が用意されていた。
「あんたも一緒に食べちゃいな」
お客さんが二組入っているから少し気が引けるけれど、でんこさんの言う通り隣に腰をおろす。
大根のお味噌汁に魚のミックスフライ。漬け物にご飯。と、なんとも食欲をそそるメニューだ。
「いただきます」
手を合わせてから、こんがりとキツネ色をしたフライに醤油をたらりと一かけする。形を見ると、アジ、白身、カキだろう。
まずは、白身から頂く。
「……美味しい」
カリッとした衣にふわっとした白身。揚げ具合が絶妙だ。
「そりゃあ、よかった」
でんこさんは、添えてあるキャベツの千切りを豪快に頬張りながら頷いている。
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