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「似合わないね。小芥子の方がよっぽど合ってるよ」
やっぱりな。と、苦笑しているとでんこさんが早速私のアダ名を口にする。
「ジョリー」
「あ、はい」
……結局、呼んでくれるんだ。
そう思っていたら、真剣な眼差しが見つめる。
被った瞼から覗くその鋭い瞳に、思わず目を逸らしてしまった。
「あんた死ぬのかい?」
確かに、変に気を遣われるよりも直球で聞かれた方が後が楽だと思う。
しかし、歳をとるのと比例してデリカシーは減少傾向にあるものだと改めて学んだ。
「あと、一ヶ月です」
「そうか」
短く答えると、でんこさんは食べ終えた自分の皿と私の皿を重ねていく。
せめて自分の分ぐらいは片付けようと手を伸ばすと、ひょいっとかわされる。
「いいこちゃんでいなくていい。ちゃんとしなくていい。この一ヶ月は、自分の幸せだけの為に使いなさい」
そう言い残すとでんこさんは、お皿を持って厨房へと消えていった。
両肩の力が抜けていく。
もう私は、他人のことを考えなくてもいい。自己犠牲の精神を美徳と捉えなくてもいい。
傲慢に自分のことだけを考えて生きていい。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「あいよ」
厨房から、ぜにこさんが笑顔を覗かす。私はみんなに声をかけると、店を出て部屋に戻った。
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