出会い

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 もう、筋トレもしなくていい。  お金のことも心配しなくていい。  残された時間をただ生きるだけでいい。  __幸せ。  久しぶりに感じた。  だけど、この非日常が日常と化してしまえばまた慣れてしまう。何も感じなくなってしまう。  人間の順応性とは時に残酷だ。それが人間を強欲にする。  私は薄暗い部屋で、持ってきたリュックサックから一冊のノートとボールペンを取り出すとペンを走らせる。  これは今日から、毎日書くと決めている。  __余命一ヶ月の私が、ただ旅をした記録。  残す必要もないような物語を、何故か遺したいと考えている自分が不思議でならない。  しかし、自分で決めたルールは遂行しなければ気がすまない頭なもので今日一日の出来事とその瞬間の気持ちを書いていく。  実に簡単で簡素な内容なのに、思い返すとクスリと笑っている自分がいた。  「はぁー」  畳の上にごろりと横になる。  久しぶりに二食がっちりと食事をしたのもあって眠くなってきた。だけどズキズキと痛む胃が睡魔を邪魔する。飲みかけのペットボトルの水で痛み止めを飲むと、少しは和らいできた。  暫く微睡んでいたらいつの間にか寝ていたようだ。階段を登る足音に目を開け、壁にかかった時計を見ると二十一時を回っていた。 「おかえりなさい」  私が扉を開けるとでんこさんは驚いた顔をした。しかし、すぐに仏頂面に戻ると「ああ」と、一言返事をするだけで部屋に入っていく。かと、思ったらすぐに戻ってきてキッチンの冷蔵庫から取り出したプリンを小さなテーブルの上に置いた。
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