出会い

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「タオルはこれを使っておくれ」 「ありがとうございます。あと、申し訳ないんですけど身体をゴシゴシ洗うやつはありますか?」 「ああ。固めしかないけど」 「固めがいいです!」  新しい物を用意してくれるでんこさんにそう答えると「わかってるね」と、笑った。 「洗濯物は、洗濯機に入れておいてくれれば適当に洗っておくよ」 「ありがとうございます」  至れり尽くせりに本当に頭が上がらない。いつもなら申し訳なさすぎて消えてしまいたいぐらいだ。  しかし、もう時期死ぬ身。  苦手なことを克服する必要もないし、洗濯物一つで悩みごとを増やしたくない。  甘えたって許されるはずだと、自分で自分を赦しながらシャワーを浴びる。  汗ばんだ身体に水圧の弱い微温湯が心地よい。リンスはせずにシャンプーだけして、身体を洗いすぐに風呂場から出ると脱衣場のネットに自分の脱いだ下着と服を入れて洗濯機に放り込む。  便利な家電なはずが、何故か私は使いこなせない。  過去に何度か挑戦してみたけれど、高野豆腐のようにカラカラになってしまった。柔軟剤の量も干し方も間違いではないはずなのに、どうも上手くいかない。  掃除だって何がいるかいらないか区別ができないから苦手だし、料理はもし火が通ってなかったらどうしようかと何度もチェックしないと不安で疲れてしまうし。  結局は、全て母に頼りきり。  正直、二十五歳にもなって何も出来ない娘は両親の重荷でしかない。  両親だってもう六十代。自分達だけのことを考えたいだろう。  そんな私が親より先に死ぬことは親不孝ではなく、親孝行だと思う。
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