出会い

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「歯ブラシは洗面台に新しいのを置いといたから、使っておくれ。じゃあ、おやすみ」  手を上げると部屋から出て行くでんこさんの背中をただ見つめる。  無神経に傲慢に。  まずは、考えることをやめよう。  タオルで髪をガシガシと拭くと、短く切り揃えた髪はすぐに乾いてくれるから有難い。当然、ドライヤーも必要はない。  私はすぐに用意してもらった歯ブラシで歯を磨くと、敷いてもらった布団の上に横になる。  ふとスマホの充電を切ったままだったことを思い出し、リュックサックから取り出し電源を入れると母からメールが入っていた。  __大丈夫?  もう時期死ぬ人間が突然いなくなったのだから、心配になるのも無理はない。だけど逆にもう心配しなくていい。私なんかに心を磨り減らす必要はない。  __大丈夫。  おうむ返しのような返信を送ると、また電源を切ってリュックサックにしまう。  そういえば、いつもならば一日中いじっているスマホの存在を今日は忘れて過ごしていた。  リアルに存在する他人と久しぶりに関わって、それどころではなかった。  ゴロンと身体を横にすると足が痛む。久しぶりに歩いたからだろう。脳も随分と疲労している。  だけど、心は思いの外疲れていない。  布団に大の字をかいてみる。寝相だけで気持ちが随分と変わる。自由になったみたい。  大きく深呼吸をすると普段は使っていないはずの布団からは、太陽の匂いがした。この部屋と同じ埃の臭いはしない。でんこさんが毎日干しているのだろうか。  __ちゃんとしなくていい。  生活の質からしたら、部屋に籠りきりで何もしない私よりもでんこさんの方がちゃんとしている。  ならば、ちゃんとしてるとは何だろう。と、また頭が動きそうになるのを無理に止める為に深呼吸をする。  いつもとは違う寝床に、刺激を受けて眠れないんじゃないかと心配していたが気づくと眠りに落ちていた。
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