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鳥の囀り。爽やかな波音。
一瞬、まだ夢の中にいるのかと思った。
しかし新聞紙の貼られた窓から差し込む高く鋭い日差しに、ハッと身体を起こす。
ここはどこ。私は誰。
ゆっくりと意識がはっきりとしていく中で、エアコンのカタカタというフラップの音が煩わしくて顔をしかめた。
そうだ。ここは食事処でんこだった。
枕元に置いてあるエアコンのリモコンを見ると、でんこさんがやっておいてくれたのだろう。朝の八時から冷房がかかるように、タイマーが設定されていた。
有難い。どこまでも行き届いた配慮に、でんこさんの方が生きていて疲れないのか心配になる。そしてまたすぐ疲れてしまう自分と比べ、気分が憂鬱になる。
だけど、生きていく中で人それぞれ心の燃費量が違うことを私は学んだ。
ここまでの配慮をしても五十パーセントの消費ですむ者と、八十パーセントの消費量の者とでは生き憎さが異なる。
私のようにただ座っているだけでも燃費してしまう人間は、自分の為にしか生きられない。
ある意味で、傲慢だ。
布団を畳み洗面をすませると、テーブルの上のデジタル時計を見て驚く。
時刻は昼過ぎ。慣れない土地と慣れない人付き合いに疲れていたとはいえ、罪悪感に耐えられなくなった私は足早に階段を降りると店の中へと飛び込む。
相変わらずお客さんのいない店内では、でんこさんが椅子に座り新聞を読んでいた。
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