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「このお漬物も美味しいです」
糠の旨味と程よい酸味。瓜に、人参に、大根。素材によって、また違った食感を楽しめる。
言うまでもないが、ご飯が進む。
「それは、私が漬けてるやつだよ」
「でんちゃんの糠漬けは日本一だから。糠床を分けてくれって来るご近所さんもいるんだよ」
厨房から出て来ると、ピッチャーに入った冷たい麦茶をコップに注いでくれるがらこさんに頭を下げる。
「大したことないよ」なんて、言うわりには「何言ってんのよ」と、がらこさんに肩を叩かれでんこさんは満更でもなく口元を微かに緩めている。それでも、仏頂面を保つ姿に思わず笑ってしまう。
「でんちゃんは素直じゃないんだから」
厨房から顔を出したぜにこさんが、ゲラゲラと豪快に笑っている。
確かに、最初は仏頂面で無愛想な人だとで思っていたけれどでんこさんは感情表現が苦手なだけなのだと思う。
顔を見ていれば微かに表情が変わるのがわかるし、こんな居候を嫌な顔一つせずに受け入れてくれては至れり尽くせりで世話をしてくれている。とても優しい人だ。
ぜにこさんもがらこさんも、そんなでんこさんの性格を理解して一緒にいる。みんなこの店の人は、お互いのことを尊敬し尊重しているのがわかる。
私にとって理想の人間関係だ。
「ぜにこは、煩いよ」
なんて憎まれ口を叩いても、照れ隠しだということはみんなにバレている。
「……本当。みなさん仲良しですね」
ふと呟いた私にでんこさんが「ただの、一人者の集まりさ」と、言った。
「私は、旦那が女作っていなくなっちゃったんだよ」
ぜにこさんがケラケラと笑う。
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