プロローグ

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 いつものネガティブな思考を抱えたまま筋トレを始める。別に身体を動かすことが好きなわけではない。  ただ毎日のルーティンを壊すことと太ることが怖かった。  今日も、またやらなければならないという脅迫的概念が付きまとう。  毎日毎日、やめるにやめられないルーティンを繰り返す人生にも心底くたびれていた。  しかし、これが私だ。  辟易しながらも身体を動かし始めると、突然胃に激痛が走る。  あまりの痛みに声も出ず脂汗だけが額に滲む。踞り目を閉じて痛みが通り過ぎるのを待っていたらいつしか視界がブラックアウトしていた。  次に目覚めた時には私は病院のベッドの上にいて、そしてよくわからない検査をさせられた。結果、痛みの原因を知ることになる。 「末期の胃癌です。余命は、あと一ヶ月もないでしょう」  表情も変えずに淡々とした口調で言う姿を見て、医師という生き物はこの世界の勝ち組だと改めて思った。  他人の問題に自己を投影することなく、己のやるべきことだけを弁えている。それができる人間は、この世界の上層で下民を見下ろすことができる。  そんなことを考えている私の隣で、両親は泣いていた。  けれど果たしてこんな生きていても仕方のないような、引きこもりの娘が長生きしてどうするというのだろうか。  これから希望もないまま、引きこもったまま干からびて死ねというのだろうか。 「治験などは試されますか?」 「いいです」と、悩むことなく答えた私に両親は何かを言いかけてやめた。  そんな小さな希望にかけるぐらいの生き方ができていたならば、そもそも私の人生はこうなってはいない。
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