デート

30/65

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
「彼氏が来たよ」  もはや、デジャブから抜け出せない小説のヒロインのような気分だ。  お決まりの、でんこさんのニンマリ顔に起こされると洗面を済ませる。  この歳になっても目覚まし時計が意味をなさないなんて本当に情けない。 「……はぁ」  心の中で頭を持ち上げた自己嫌悪が、この身体をグルグルと締め付ける。  身体が重くなり、もう一歩も動けない。  ……どうして、私はこんなダメ人間なのだろう。  一度寝たら起きないのは子供の頃からだ。  しかし、いつか成長という進歩を遂げると思っていた。  小学生の頃は同じような悩みを抱えていたクラスメイト達もいたけれど、やがて学年が上がるにつれて改善されていった。  なのにどうして?何で、私だけ? 「ジョリー?」  ハッと顔を上げると鏡越しにでんこさんと視線がぶつかる。  その瞬間、現実に引き戻される。  __私は、もうすぐ死ぬ。  そうだ。こんなダメ人間も、もう時期終わりを迎える。悩まなくてすむ。他人と比べずにすむ。自己嫌悪に苦しむこともなくなる。自然と口角が上がる。 「ちょっと、ボーッとしちゃって」  笑って誤魔化すと急いで部屋にある白いブラウスと、元々自分が持っていたデニムに着替えると一階に下りる。そして今日もぜにこさんにお化粧をしてもらった。 「真澄君! お待たせしてごめん!」 「いいえー」  そろそろ文句の一つでも飛んでくるかと思ったけれど、真澄君は私の姿を見ると運転席から下りてきて助手席の扉を開けてくれた。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加