12人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
「また、思考家になってるぞ?」
振り向くと真澄君が苦笑している。
ただこの瞬間を楽しむことは、やはり私には難しい。
思考が嫌な方向に引っ張っていく。やがて目の前の景色が見えなくなる。そして頭の中で自分と自分が対話している。それでも現実は進んでいく。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
明るく勤めようと辛うじて絞り出した声は掠れていた。だから誤魔化すように咳払いすると気持ちを持ち直す。
__もう時期死ぬ。
__もう時期お別れがくる。
すると頭から余計な思考が消えていく。考え方がシンプルになる。心が穏やかになる。
きっとこれは自分に対する諦め。だけど苦しむよりもよっぽどいい。
「今日はわりと近場なんだけど、ひたち海浜公園って知ってる?」
「ネモフィラだっけ? 花が咲くので有名な?」
「そうそう。調べてみたら今の時期は向日葵が見頃なんだって」
「へー。そうなんだ」
ネモフィラ畑は、季節になるとこぞってリア充達が画像をネットに上げている。動画でも見たことがあるけれど淡い水色の小さな花が一面咲き誇り、風に吹かれてはまるで波のように柔らかく揺れていた。
「何か花を見に行くとか初々しいね」
「初々しいか?」
「うん。あと、リア充っぽい」
そう言うと、真澄君は首を傾げながら笑っていた。
正直、水族館からのお花鑑賞はベタ中のベタなイメージだ。
「調べてくれてありがとね」
その姿を想像したら何だか微笑ましくて、お礼を伝えると少しハニカミながら「おう」と、答える。
脳が過敏な私からしたら人混みに行くことすらハードルが高いし、季節が巡る瞬間は歳の数だけ見てきた。
それに伴うイベントにもあまり興味はない。
だけど、興味があるのが健全でリア充な証拠のような一瞬の偏見のような憧れもある。
最後に一瞬だけ、仲間入りするのも悪くはない。
最初のコメントを投稿しよう!