デート

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 他愛いのない会話をしていたらすぐに海浜公園にたどり着いた。  真澄君は向日葵が見えるエリアに近い駐車場に車を停めると、当たり前のように財布を取り出す。 「ちょっと、待って。これぐらいは私が出すから」 「いいよ。俺が決めた場所だし」 「いやいや。出してもらいすぎだから」  真澄君を阻止すると、私は慌てて二人分の料金を払う。 「さんきゅ。でもさ、女は気にしなくていいんだよ」 「女とか男とかは関係ないよ。同意の元で私もこの場にいるんだしさ」  例え後先がない関係だからとはいえ、奢られ過ぎるのには抵抗がある。  それは、これまでが割り勘を貫いてきたからだと思う。  見返りを求められても困るし、何よりお互い同意の元でその場にいるのならば、自分のぶんを払うのは当たり前のことだと思っていた。  それにサッパリ割り勘にしてもらった方が、関係性も頼り頼られもなく割り切れるような気がしていた。  だけど、この旅では強がることもなく人に甘えて最期を過ごすことを目標にしている。が、目標にしていると志している時点で自分の中では自然なことではなくて不自然なことで。  特に真澄君は年下だし、何より良い子だし……。 「眉間に皺が寄ってるぞ」  細い人差し指が眉間に触れる。  だけど意識はなかなか現実へと戻らない。途端にでんこさん達に世話になっていることも申し訳なくなってきた。  こんな自分が存在していることも。 「今度は口がヘの字になってる」  目の前にいる真澄君に病気のことを打ち開けたら何と言うだろう。  彼はもっと気を遣ってしまうだろうか。私はこの罪悪感が拭いされるだろうか。素直に甘えることができるだろうか。  悩んでいると胃がキリキリと痛みだす。  これはきっと精神的なものだろう。  だけど悩んでるこの時間も、刻々と病魔が身体を蝕んでいく。  こんなの時間の無駄。悶々と悩むのは一人になってからにしよう。  目の前に相手がいるのに、思考に飲み込まれてはいけない。 「……ありがとう」 「え。時差あり過ぎじゃね? もしかして衛星放送?」  思わず吹き出すと真澄君は微かにホッとした顔をしているように見えた。  気を遣わせてしまった。と、自己嫌悪の渦に巻かれそうになる寸前の所で頭がショートする。ダメだ。考え過ぎた。 「ほら。行くぞ」  背中を押され二人でゲートを抜けると、人口の湖と様々な種類の鮮やか花が出迎えてくれる。  目がチカチカするけれど気分は悪くない。日射しは強いけれど、今日は風が心地よい。何ともお散歩日和だ。  景色を愛でながら歩く時間は不思議な程に穏やかで、ささくれた心を癒してくれる。  すると、隣を歩く真澄君が足を止めた。
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