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「ちょっと、トイレに行ってくるね」
黙ったままの真澄君を置いて私は近くのお手洗いに入ると、常備してあるペットボトルの水で痛み止めと胃を保護する薬を飲み込む。
朝は胃が休んでいるからなのかあまり痛みを感じないのに、午後になると頻りに痛みだす。
「ふぅー」
擦りながら洗面台に両手をつき深呼吸をすると、速くなった心臓の鼓動がゆっくりと元に戻る。
ホッとしながらも、頭にはあの二文字が過る。
真澄君やでんこさん達の前で倒れるわけにはいかない。これ以上、迷惑はかけられない。
__そろそろ現実に戻る時間だ。
「お待たせー」
努めて明るい声を出すと、壁に背を預けながらスマホを弄っていた真澄君が顔を上げる。
「おう」と、答えたけれど元気がない。正直、彼はわかりやすい。
きっと、さっきの写真の件が尾を引いているのだろう。だけど気づかないふりをしながら、園内を歩き出す。
真澄君のことは嫌いじゃないし、むしろだんだんと二人でいる時間が速く過ぎていくように感じて戸惑いを覚えている。
だけどそれを言った所で私達の間には何も残らない。ただ、別れがくるだけ。
だから写真も撮らない。彼の何かに私を残したくない。
そしてこれ以上、彼の心が動かないようにしなければならない。
「そういえば、俺たちって連絡先も知らないよな」
思い返したように、ふと呟く言葉をどう受け止めたらいいかわからない。だから自分にとっての事実だけを答える。
「私達は非日常を楽しんでいるんだもの」
たった数日を共にしただけなのに、真澄君に対しての行動には感情が付きまとうようになってしまった。
これは油断していた私が悪い。
短い期間ならばと、時間だけを気にしていた。
だけど肝心なことは時間ではなく中身だ。
真澄君との数日は私にとってとても濃い時間だった。その濃さが真澄君に対する感情に影響し始めてしまった。
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