デート

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「くっくっく。ドラマのワンシーンかと思ったよ」  振り返ると、でんこさんがニンマリと笑っていた。  確かにこういう別れ際のシーンはドラマで見たことがある。が、実際はとても恥ずかしいし何とも複雑だ。 「それに、彼氏もベタな物を見に行こうとしてるもんだ」 「彼氏じゃないです。って、でんこさんはわかるんですか?」 「そりゃあ、この辺りだとあそこだろうね」と、ほくそ笑むと店の中へと消えて行った。    “__最後の約束な”  さっきの真澄君の声が心の中で何度も響く。  良くも悪くも彼の言葉は真っ直ぐこの心に届いてしまう。  傷ついたわけじゃない。だって私の言動からその答えが適切だと相手も判断したのだろう。実際正解だとも思う。  だけど自分にもわからなくなってきた。結局、私と真澄君の関係に於いて何が正解なのか。  もっと傲慢で生意気な子だったら良かったのに。  そうやって相手の言動を理由にしたいと思う私は、少なからず彼に心を動かされてしまった。  だけどそれは悪いことなのだろうか。いや、暗闇を一人生きていた私の中で財産になるはずなのに何だか泣きたい気持ちになる。 「ジョリー。早く来な。夕飯だよ」  いつまでも入って来ないことを心配したのだろう。もう一度顔を出したでんこさんに手招きされ中に入ると「お帰り」と、みんなが笑顔で迎えてくれる。  別れを前提に出会ったはずなのに、この環境はあまりに優しすぎた。  痛む胃よりも心が苦しくて、泣き出してしまわないように唇を噛みしめると不格好な笑顔を造る。 「今日のお土産はプリンにしましたー」  ソフトクリームを買った売店でゲットしたお土産を食事処の冷蔵庫にしまうと、がらこさんが用意してくれたお刺身定食の乗ったお盆を受けとる。  だけどいつもよりご飯だけは減らしてもらった。  食意地はあるのに、今日はお昼を完食するのがキツかった。今も空腹感はあるのに胃痛がして量が食べれそうにない。  段々と痛み止めが利きづらくなっている現状が全て。  私の夢のような時間はここまでだ。
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