デート

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「……ごめんなさい。嘘をつきました。本当は具合いが悪くなってきてしまって」  頭を下げると誰かが背中を擦ってくれる。顔を上げるとぜにこさんだった。 「少しづつ食事の量が少なくなってたもんね。無理しなくていいんだよ」 「この辺りにも病院なんていくらでもあるんだから、何かあったら私が担いで行ってもいいんだからね」  そう、がらこさんが笑う。 「がらこじゃ頼りないね。私ならまだしも」と、胸を張るでんこさんにみんなが笑い出す。  ……ああ。私はやっぱりこの場所がこの人達が好きだ。 「ジョリーの気がすむまでいたらいい」  そう言われて私の心が動く。  やっと自分の答えを見つけた。 「いたいだけいられるのなら、私はきっと幽霊になってもここにいます。だけど落とし処を見つけるのも人生だと思うんです。まだ、ここにいたい。だけど、気は済んでる。なんか、不思議な感覚なんです」  この旅に何かを求めていたわけではなかった。  なのに食事処でんこでお世話になって、他人と笑い合って想い合って。  その温もりが、死んだはずのこの心に命を吹き込んでくれた。  まるで若葉が芽吹ように、この心からもまだ新しい感情が生まれることを知った。  もう、それだけで充分。  私の人生は、これから死ぬだけの人生ではなくなった。 「みなさんから頂いた温もりを、このまま持ち帰ろうと思います。これはみなさんに迷惑をかけたくないとかではなくて、私が嫌なんです。みなさんにとっても私との思い出が少しでも悲しいものでないように。そうあって欲しいから」  胸にできた痼が溶けていくのを感じる。  やっぱり自分の心に嘘をついてはいけない。  例えそれが優しい嘘だとしても、優しいか優しくないかを決めるのは相手だ。  事実を話し、どう感じるか相手に答えを委ねることも優しさなのかもしれない。
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