デート

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「わかったよ。なら、交換条件がある」  突然、でんこさんは立ち上がると紙とペンをテーブルの上に置く。 「住所を書きなさい」 「え?」  その意図がわからず戸惑っていると、ぜにこさんとがらこさんが後ろでクスクスと笑っている。 「全く、でんちゃんは素直じゃないね」 「うるさいよ。がらこ」 「素直に糠漬けを送るからって言えばいいのに」 「こら、ぜにこ」  二人の言葉に目をパチクリさせていると「ジョリーの好きなだし巻き卵と肉じゃがも送るから」と、でんこさんがバツの悪そうな顔をしている。  やっと意図がわかったとはいえ、この胸にはもやもやとした何かが生まれる。その正体を確かめるように私はしどろもどろに口を開く。 「……とても嬉しいんですけど、私はもう時期死ぬ身ですし」 「それは、みんな同じだね」と、ぜにこさん。 「……私達ってこの非日常的な世界で出会って本名も知らないし」 「それは、私達も知らないね」と、がらこさん。 「……何というのか、そういう関係になってもいいのかと。あとみなさんは、そういう関係を望んでいるのかと」  漫才のコントのようにすかさず突っ込みを入れてくる二人に、なかなか上手く伝えることができない。  だから諦めて、ただ感じたことを口にする。 「……私が戻ったら、それで終わりなのかなって思ってたので」   だってもう時期死ぬ私が突飛な旅に出て、非日常的な環境でみんなと出会った。  確かに顔と顔を突き合わせていたとしても、本名も知らない。  何とも不思議な関係はこの環境から離れたら終わると思っていた。何故かそれが普通のように当たり前のように考えていた。 「ジョリーは、私らの本名を知れば関係を続けようと思うのかい?」 「え?」  でんこさんが、こちらをジッと見つめる。 「私は名前なんてどうでもいいんだよ。だから私達も適当な呼び名で呼び合ってる。だからって仲が悪いわけじゃない。その辺の名前を呼び合っていても薄っぺらい友情よりかは遥かに分厚いよ」  確かにみんなの姿を見ていればわかる。  本名を呼び合っていなくとも、そこには家族のような温かな絆が見える。
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