デート

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「どんな縁かは知らないけど、私らはこうして出会った。例え短い時間だとはいえ、今ではジョリーのことをみんな孫のように思ってる。例え本名を知らなくてもジョリーはジョリーだ」 「……でんこさん」 「それに肝心なのは、私らの気持ちじゃなくジョリーがどうしたいかだ。ここを離れたら、もう出汁巻き卵も肉じゃがも糠漬けも食べなくていいのかい?」  そう言われ、何だか笑ってしまった。  食べ物に釣られるようで申し訳ないけれど、きっとこの場所から離れたら離れただけここの食事が、みんなのことが恋しくなるだろう。 「……それは間違いなく食べたいです」  素直に答えるとみんなが笑う。  出会った時には、まさかこんな感情が生まれるとは思ってもいなかった。  本当に心は時に想像できぬ動き方をする。  ただ泊めてもらうだけの場所。ただ世話をしてもらうお婆さん達。なのに今ではこの場所を離れても……。 「……みなさんと、ずっと繋がっていたいです」  私は変な所に拘る傾向がある。  過ごした日数が関係性の深さを決めるわけではないのと同じように、本名を明かすことがこれからの関係の持続性を決めるわけではない。  そのことを改めて、みんなから教わった。 「もう。何を言ってるの。どこにいても繋がってるわよ。今の時代は電話があるんだし」と、ぜにこさんが私の肩を叩く。 「そうだよ。うー婆ーいつー? みたいに運んであげてもいいんだよ?」なんて、がらこさんは至って真面目な顔で面白いことを言い出すから噴き出さないように堪える。 「じゃあ、住所を書きなさい」 「……はい」  メモに住所を書くと、一応電話番号も付け足した。  そのうち私が死んだら、うー婆ーいつーを止めてもらわないといけないから。と、頭で考えていたらもう我慢ができずに笑ってしまった。  がらこさんに、本当の名称を教えてあげるとみんなで顔を見合せて笑い合う。  この時間がとても尊い。  ただ過ぎるはずの時間が今は意味をもたらす。感情を乗せていく。 「明日はジョリーの送別会をしよう」  でんこさんの提案にぜにこさんもがらこさんも手を叩いて賛成する。その姿に恐縮だけれど甘えさせてもらうことにした。
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