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「彼氏が来る前に起きな」
「……彼氏じゃないですって」
でんこさんのいつもとは少し違う言葉を目覚ましに身体を起こすと、電気がついていることに違和感を覚える。
しかし、枕元の目覚まし時計を見て納得する。只今の時刻は朝の四時。新聞の隙間からは、まだ日が差し込んではいない。
「……すみません。起こしてもらっちゃって」
昨日の夜に理由を話し、でんこさんにお願いをしておいたのだ。
「いいんだよ。私は朝の仕込みがあるからね」
そう言うと部屋から出て行く後ろ姿にギョッとする。
ショッキングピンクのムームーに頭には同じ色のヘアバンド。
考えてみたら、いつもでんこさんよりも早く寝て遅く起きる私は寝巻き姿というものを見たことがなかった。
そんなことを思っていたら視線に気づいたのか、振り返ったでんこさんが嫌そうな顔をしながら言う。
「ぜにこから誕生日プレゼントに貰ったんだよ。こんな派手なのいらないって言ったのにさ」
確かに、ショッキングピンクはぜにこさんのイメージだ。
しかし、文句を言いながらもちゃんと着ている所がでんこさんらしい。不器用だけれど人の気持ちを大切にする性格が現れている。
「似合ってないけど、いいと思います」
素直に感想を伝えると「うるさいよ」なんて言いながらも、でんこさんは笑っていた。
私の服装をダサいと言うのだからお互い様だろう。
洗面を済ませて服に着替えると予想通り「ダサい」と、言われた。
グレーのティーシャツにデニムというシンプルな格好はある意味現実に戻る儀式的な服装だ。
魔法が解けたシンデレラのように、私はズボラな元の自分に戻る。
でも例え魔法が解けても、でんこさんやぜにこさんやがらこさんとの関係は終わらない。そう思うと胸が温かくなる。
「本当にいいのかい?」
先程、今日はまだぜにこさんが来ていないから代わりにでんこさんがメイク係に申し出てくれた。
しかし私はそれを断ったのだ。
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