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「はい。これが現実ですから」
私が非日常を楽しんでいたように、真澄君だって同じはず。ならば最後は、一緒に現実に戻りたい。
「どれも現実じゃないのかね」と、呆れた顔をするでんこさんに苦笑する。
“__俺は現実だよ。ジョリーの目の前にいるじゃん”
水族館に行った時、真澄君も同じようなことを言っていた。
確かに私達は物語の中の人物じゃないし、確かに実在する人物だ。そしてこの世界も現実に違いはない。
だけど現実に少しでも非日常的な要素を求める心があって、その願望の元に過ごしたのならばその時間を現実だと言えるのだろうか。
ネット上で偽名を使って他者と交流したり、身分を明かさずに趣味が合うもの同士で遊んだり。コスプレをしたり。
みんな現実の中に非日常を求めている。
だけどその時間には期限が決められている。
いつか終わりがくるその時間を、少なくとも私は現実と呼ぶことはできない。
「心の問題です」と、ぎこちなく笑うとでんこさんは呆れたような顔をしていた。
この姿を見たら、それこそ真澄君の魔法が解けるだろう。現実が見えるだろう。
そうしたら、サッパリとお別れができる。
「行ってらっしゃい」
準備をすませると私は待ち合わせの時間より少し早く部屋を出た。
朝の新鮮な空気をこの肺に沢山吸い込んでいたら、見慣れた車がゆっくりと近づいてくる。
「おはよう」
自分から近づき扉を開けると真澄君は驚いた顔をしている。
それは遅刻しなかったことに対してなのか。それとも現実の私の姿に対してなのか。
わからないけれど、そのまま確かめることはせずに車に乗り込む。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
そっと口角を上げると真澄君も微笑みながら「内緒」と、言った。
大丈夫。私も真澄君も笑えている。きっと、最後は楽しく過ごせるはずだ。
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