穿つ雨音

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 パラパラという音に気付いて、顔を上げる。  此処から外は見えない。  雨でも降り出したのかな?  思ったままを口にしたら、面白いですね。と返ってきた。  何故そう思います?  ここから外は見えないのに。  だって、そんな音だろう。  パラパラと雨粒が軒を打つ音。  そういえば。  以前何かで読んだ事があります。  急にそんな事を言う。  一つの事象に対して多くの名称があるのは、その事象に対しての馴染みが深いからだと。  アナタのお国は、雨に馴染みが深いのでしょう。  なにしろ雨の名前が400以上もあるのですから。  例えば。時雨。春雨。五月雨。催花雨。  青葉雨。雨濯。卯の花腐し。そして慈雨。    歌うように、雨の名称を唱え続ける。  優しい雨ばかりだ。  しかし今聞こえる『雨音』は、そんな雨とは違うものだ。  宇宙船の外殻を穿つ、スペースデブリ。  土砂降りにならないうちに、軌道を修正しなければ。  大丈夫。すでに修正済です。  そう報告するAIの声が、得意気に聞こえた。  -end-    
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