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それから、青山は、何ひとつおかしな行動をすることなく約一ヶ月経った。
「や、奇遇ですね。たまには一緒に飲みましょうよ。ご近所のよしみで」
奇遇ではない。佐々木は青山を待ち伏せしていた。直接話を聞いてみようと。
「あ、いや」
青山は、顔の前で手を横に振った。佐々木は「もちろん、誘った私が奢りますから」と耳打ちし、青山と肩を組んだ。
あたふたする青山を強引に誘うと、腕をほどいて、佐々木が先導した。
アパートから出て、居酒屋へと歩く道。佐々木は、近道の路地へと足をすすめた。街灯と街灯の間に距離があり、ふつうは少し暗いところだが、今日は満月。佐々木の足取りは軽く、青山は一歩遅れて歩いていた。
「お仕事を探しておられるんですか?」
佐々木は、青山の手が震えているのに気づいた。前を見た。前もだった。そう、初めて地球に帰った日。何かの病気かもしれない。
「ええ、でも、なかなか採用してもらえなくて」
青山の声は震えていた。
佐々木は努めて笑顔を作った。
「まあ、相性とかもありますからね」
佐々木は、満面の笑顔で振り返った。
振り向きざまに突然、顔面に激痛を覚え、地面に仰向けに倒れた。
何が起きた?
青山に殴られた?
気に入らないことを言ったから?
佐々木の視線は宙を彷徨っていた。
仰向けで倒れている佐々木に青山が馬乗りになって、首を締め出した。
佐々木は、青山の肩越しに満月を見ていた。そして、全ての謎が線で繋がった。
立証されなかったものを含めての殺人のリズム。それは、満月の夜。満月の夜に青山は殺人鬼になる。
地球に帰った日、あの日も満月だった。でも、殺人鬼にならなかった。それは雨が降っていたから。
雨の満月の夜は、殺人鬼になれない。中途半端な日だから青山は、雨を、雨音を嫌った。今は別の人格。顔つきが違う。快晴なら記憶もなく、苦しむこともない。
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