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部屋の薄いカーテンから、低くなったオレンジ色の光がベッドに差し込む。 ………日が暮れる? 本当に一日中抱いてた…… 「……お腹がすいた」 隣から掠れた声が聞こえてくる。 「……ごめん」 「何回もお腹すいたって言ったのに…」 唇を尖らし、恨めしそうに俺を見るお前。 「……食べる時間も惜しかったんだ」 誤魔化すように抱き締めて、額に唇を寄せた。 「……それは………僕もだけど……でも、もう限界。何か食べたい」 「……うん」 ………どうしようか 「ちょっと買い物に行ってくるよ」 少し考えてそう言うと、お前が顔を上げて目を輝かす。 「僕も行きたい!」 「……俺が言うのもなんだけど、身体は大丈夫か?」 だいぶ無理をさせた自覚がある。お前の腰に触れながら尋ねた。 「大丈夫だから……一緒に出掛けたい」 お前は俺の手に触れ、いつもの好奇心いっぱいの顔で微笑んだ。 さっそく二人でベッドを出ると、一緒にシャワーを浴びて着替える。 時々、気だるそうに身体を動かすお前が妙に艶目いていて、俺には目の毒だったけど…… 日が沈む前の、紫の空が綺麗に見える街の中を二人で歩き出す。 隣を歩くお前の手に、俺の指を絡めると 「誰かに見られるかもよ……」 少し驚いて、指を離そうとするお前の手を引き留めた。 「ここは、俺達の街じゃない……誰も俺達の事は知らない……だろ?」 「……そうだけど…」 少し戸惑っていたお前も、知らない街の風景に自然と笑顔になっていく。 小さな商店街、可愛い豚の絵の看板。俺は迷わずそこに進んだ。 「お肉屋さん?何を作るの?」 キラキラ目を輝かせ、肉が並んだショーケースと俺の顔を交互に見る。 「お前の好物」 「とんかつ!?やったー!」 溢れ落ちそうな笑顔に、お前の喜ぶ事は何でもしてやりたくなった。 お前の好きなものを一つずつ買って、街灯が点り始めた街を歩く。 総菜屋の美味しそうな匂いに「お腹空いたねー」って笑うお前が可愛くて……… ………心が熱くなる 瞬き一つも勿体無いくらい、お前を見つめていたい……… 「どうしよう……」 「……何が?」 「……またお前を抱きたい」 「…………」 何か言いたげに口を開けて、でも何も言わずに俺を見つめるお前。 そんな顔も愛しくて、冗談だよと笑って誤魔化す……… 「まずは、とんかつだな」 俺の一言に、少し背伸びをしたお前が耳元で呟いた。 「………僕は…とんかつが、後でもいいよ」 はぁ………俺……明日の夜、お前を帰せる自信が無くなってきた 荷物を持ち直して、もう一度繋ぎ直した手。 今はただ、この幸せな時間を大切にしよう……
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