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………今日はミーティングがあるって言ってたな 一息ついた仕事の合間にミーティングルームのあるフロアを覗いてみた。 ……居た 廊下に面した透明なガラス張りの壁の向こう、部屋の角で誰かと話している。 今朝、出掛ける時に選んでいたオフホワイトのサマーセーターがよく似合ってるな。 うちの会社はわりと自由な社風で、何かがある時以外は、男性も女性もラフな服装だ。だから皆、それぞれ自分の個性を生かした洋服を身に付けている。 男性のわりに華奢なお前には、少し大きく感じるサマーセーター。可愛くて、朝、先に出掛けるお前を引き留めたくなった。 「……なぁ、あいつ最近可愛くなったよな」 「…うん。俺もそう思った」 朝の玄関でのお前が蘇り、頬を緩めていると、横から聞こえてきた同僚達の会話。 可愛くなった?……部屋の中にはあまり女性は居ないけど、誰のことだ? 「あいつなら男でも……なんて思うよな」 「お前も?俺もちょっとそう思う。ほら見てみろよ。あの課長のでれた顔。課長も絶対可愛いと思ってるぜ」 ………男?………課長? 俺はガラスに一歩近づくと、中を覗き込んだ。 課長はどこだ…… 噂の課長は、長身でイケメン。女子にも人気がある。俺と同期のその男は、群を抜いた頭の良さと行動力で、あっという間に出世していった。悔しいけど性格もいい。 その課長の目の前で、可愛い笑顔で話をしているのは…… 嘘だろう…… 「あのサマーセーターが少し大きいのかな」 「……ああ。鎖骨まで見えるな……」 「……色……白いよな」 「……あの肌……さわり心地良さそう……」 「あっ!課長。背中に手を添えてないか?」 次から次に聞こえる会話。 バン!! 気がつくと、目の前にあるガラスを思い切り叩いていた。 ジンジン痺れる手。押し黙った同僚達。部屋の中の視線が一斉にこちらを向く。 課長の肩越しに、お前と視線がぶつかった。 すると、課長に何か話しかけ頭を下げたお前が、こちらに向かって走り出す。 ドアを開けて廊下に出ると、俺の手を掴み、顔を見上げる。 「どうしたの?ぶつかった?大丈夫?」 赤くなった手を見て心配そうに聞く。 …………駄目だ。抱き締めたい お前は俺のものだと、ここに居る全員に宣言したい…… 俺は掴まれた手を握り返すと、そのままずんずん歩き出した。 廊下の突き当たりまで来ると、そっと手を離して着ていた上着をお前にかける。 「……どうしたの?」 「……訳は帰ったら話すから……頼む、今日はこれ着ててくれ」 俺の言葉に訝しげに首を傾げる。 「……分かったけど……」 上着に袖を通したお前。 「……寒くない?」 そう言って、俺の腕に触れぎこちなく笑う。 ………寒さくらい、のりきってみせる。 「……大丈夫。帰ったらたっぷり温めてもらうから」 お前の耳元で囁くと、セーターから覗く白い肌が赤く染まっていく。 「……じゃ……じゃあね。僕、ミーティングだから」 俺の身体をそっと離して、手に一度だけ触れて走り去る背中。あのセーターは隠しておこう。そう心に誓う俺だった。
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