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11
仕事から帰った僕を、玄関で迎えてくれたあなた。すぐに膝裏から抱き上げられて向かった先は、バスルームだった。
有無を言わせず重なった唇。いつもより強引に脱がされる服。
「入浴剤貰ったんだ」
そう微笑んだあなた。言葉と笑顔と行動が、ちぐはぐで………僕は何も言えなかった。
そして今……
僕はあなたの肩に額をつけて、短い呼吸を繰り返してる。
「..あっ...ん」
白く濁ったお湯が、ちゃぷんって揺れる。お湯の上に浮いてる花びらが、ゆらゆらと動き出す。
お湯の熱さと、あなたの熱さにのぼせそう……
なぜ、あなたがこんな性急に求めてくるのか。
きっとそれは、ミーティングが終わった後、あいつから聞かされた話が、関係してるのかも……
「お疲れ!」
ミーティングルームを出て、部屋に戻ろうとした僕の肩がふわっと抱かれた。
「……お疲れ」
綺麗な顔が、顔のすぐ横にあって少し体をずらす。
「なんだよ……」
訝しげな顔をして、僕の肩をぎゅっと抱き直したのは、僕の親友。同期の彼は、この顔と人懐っこい性格で、女の子達にかなり人気がある。本人はまるっきり、その気はないけど……
周りの視線が痛いんだって………
こっちの気持ちなんて、ちっとも気づかないで歩いていく。
「……さっきは、びっくりしたな」
僕にアメリカーノを差し出しながら、少し小声で話し出す。自分は飲めないコーヒーショップに僕を連れて行ったのは、話したいことがあったのか……
「……何が?」
「……あの人、いきなりガラスをバンって叩いたから……」
「……叩いた?」
「そうだよ。お前も中から飛び出して来ただろう」
あの時の事か……ミーティングが始まる前、急に大きな音がして見ると、廊下に佇むあの人がいて。ガラスにぶつかったのかと思って、慌てて外に出たんだ。
「……あの人……お前の事、可愛いって話してる奴らの会話を、聞いてたんだよ」
「……可愛いって…なんだよそれ」
「……それに、課長とイチャイチャしてたのも見てたし」
「イチャイチャなんてしてないよ!」
「……そーかなぁ。まぁあの人にはそう見えたんじゃないか……いきなりガラスを叩くから、こっちが驚いたよ」
「………」
「……可愛い恋人を持つと、気が気じゃないんだろうな」
僕達の事を、唯一相談している親友の助言。
内心では、やきもち妬いてくれるなんて嬉しいと思っていた。
早く帰って、あなたを抱き締めたいと……
「……帰ったら大変そうだな」
そう言って意味ありげに笑ったあと、残業を手伝ってくれたあいつには、明日ランチを奢らなきゃ。
白く濁ったお湯の中。気が逸れた僕を引き戻すように、あなたの両手が僕の腰を動かす.....
それに合わせるように揺れる花びら。
「.........あっ.....待って」
彼の腕が僕の腰から移動して、身体を起こされた。
「.......はぁ....俺を見て」
あなたの熱を持った瞳が僕を見つめる。いつもの柔らかい優しい瞳じゃなくて、僕を酔わせる大人の漢の瞳。
「.....お前の溶けてる顔が好き.....ほら見てごらん」
そう言って今度は、僕の顔が鏡に写るように身体を動かす。
「....いや....んっ....」
鏡に写った僕の顔。恥ずかし過ぎ て目を逸らす。
「....ほら.....見て.....最高に可愛い」
乱れて額に掛かっ た前髪を、あなたが整えながら言う。
紅く蒸気した頬。潤んだ瞳。だらしなく開いてしま う口元。僕は見ていられなくて、あなたの唇を挟むようにキスをした。
どうやったらこの想いがあなたに届くのだろう。あなた以外いらない、いつもそう思っているのに……
バスルームに入って直ぐ、お互いを洗いあっただけで、もう僕の身体は蕩けていた。いつも置いてある容器にそっと手をのばすあなた。
「....ここも....」
長くて綺麗なその指が、僕の中も蕩けさせていく。脚の力が入らなくなり、身体を預けながら囁く。
「.......ねぇ....も う....お願い」
欲しがったのは僕の方からだった。
壁に背中を着け、僕の片足を持ち上げた。あなたの熱がゆっくりと僕を貫いていく。
「......風邪引くかな」
そう呟いたあなたが、僕を持ち上げ湯槽に入る。入ったままのあなたの熱が更に奥まで届き、僕の身体が仰け反る。
お湯の中でゆっくり繰り返される刺激と、お風呂の中でいつもより甘く響く僕の声に酔わ される。
あなたは勘違いしてる......。あなたの周りの全てのことが、気になるのは僕の方なのに……
「......そろそろ出ないと」
あなたが僕の耳朶を舐めながら囁く。
「.....やだ.....」
「...明日も....忙しいだろう」
諭すように僕に囁くくせに、僕を動かす手は止まらない。時々下から突き上げられ、僕の身体がまた仰け反る。
「.....あ.....明 日は....んっ..現場に...直行だから....んん.....」
僕の言葉に一瞬動きを止めるあなた。
「.......何時から?」
「……11時…」
また、律動を始めながら耳元で囁くあなたの顔を伺うように見ると、そ の瞳の色が変わった。
「.....じゃあ、たっぷりと楽しめるな」
「.....えっ.....あぁんっ」
僕を一 度だけ突き上げ、横に降ろす。僕の中から、あなたがいなくなったことが心細くて動けずにいると。
「......さぁ....出るぞ。続きはベットで....朝まで離せないかも……」
「.....朝まで……?」
腕を引かれ、お風呂から出た僕の背筋が一瞬寒く感 じたのは......期待....それとも?
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