62人が本棚に入れています
本棚に追加
14
「一緒に行きたかった.....」
暗い部屋で1人呟く。
いつもの部屋なのに凄く広く、寒く感じるのはなんでだろう。
「……甥っ子の顔を見に行かないか?」
そう、あなたがせっかく誘ってくれたのに、急に入ったクライアントからの要望で、一日仕事になってしまった僕。
「……別の日にしようか」
あなたはそう言ってくれたけど、せっかく楽しみに待っているお兄さん達。
「……僕はまた今度行かせて貰うから………そうだ、せっかくだから泊まっておいでよ」
そう言って笑顔で送り出したんだ。
でも.......凄く寂しい。
朝まで一緒にいた。まだ、丸一日だって離れてないのに………
「……お前のこと、兄さんに紹介したいんだ」
照れくさそうに言ったあなたの言葉が、凄く嬉しくて………
「……赤ちゃん、会いたかったなぁ」
僕は小さく呟くと、それを振りきるようにベットに置いてあった、今朝まであなたが着ていたパジャマを持った。
シャワーを浴び、あなたの少し大きいパジャマを着てキッチンに行く。
二人色違いのマグカップを手に取る。
今日はあなたのマグカップ。
お砂糖を入れた甘いホットミルクを作り、あなたが大事にしてるブランデーを、少しだけ滴す。
甘いホットミルクからは、ブランデーのいい匂い......
パジャマからは、大好きなあなたの匂い.......
これで1人でも眠れそうかな......
今朝まで一緒に居たベットに座ると、静かな部屋に雨の音が聞こえてきた。
「.......ああ。そうか......雨のせいだ」
僕がこんなに寂しいのも、あなたが恋しくて仕方ないのも.......
きっと......この降り続く雨のせい。
僕は、マグカップをサイドテーブルにそっと置くと、あなたの枕に顔を埋めた。
大きく息をして、あなたを感じる。
「.......逢いたい」
僕.......こんなにあなたが好きなんだね。自分で少し可笑しくなった。
ピコンって、不意に携帯の音がして手を伸ばして見ると……
《シャワーして、歯も磨いたか?》
「.......フフフ。子供じゃないんだから」
あなたからのメッセージに、思わず笑みが溢れる。
《ちゃんとしたよ。もうベットに入った》
《偉いぞ》
《そっちは?ベットに入った?》
《まだ........でも、寝る前にお前の顔が見たい》
《フフフ......どうやって?》
《今のお前。写真で送って》
《.......やだ》
《なんでだよ.......送って。送って。送って》
「.......もう。しょうがないな....フフ」
僕は携帯を構えると、写真を撮ってあなたに送る。
さっきまであんなに寂しかったのに、あなたとのやり取りに、雨の音は感じなくなっていた。
あなたからの返事を待っていると、
《やっぱり帰る》
その一言だけが返ってきた。
「.......えっ?」
その後は、いくらメッセージを送っても既読にならなくて........。
1時間後、玄関から飛び込むように帰ってきたあなたに抱き締められた。
「......どうしたの?」
「.......お前が......俺のパジャマ着てるから.....」
「...........」
僕は、あなたの背中に腕を回す。ぎゅっとしがみついた大きな背中。
僕の為に帰ってきてくれた、愛おしい背中。
「.......愛してる」
雨の夜は、冷たくて寂しい....月も星も見えないから......
でも、あなたの温もりに包まれる雨の夜は、少しだけ愛おしい......
最初のコメントを投稿しよう!