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小さな小さな手をぎゅっと握って眠る天使。 口に咥えてるおしゃぶりが、時々ちゅぱちゅぱと音を立てて動く。 「………可愛い」 ベビーベットの中の赤ちゃん。やっと会いに来れたよ…… あなたの目に入れても痛くない甥っ子。何度も僕に会わせたいと言っていた天使。 「………よく寝てるでしょ」 ふわふわとした少し茶色い髪を優しく撫でながらお姉さんが呟く。 「……はい……よく寝てますね」 僕もそっと、その小さな手に触れてみた。 二人で触れているのに、やっぱりちゅぱちゅぱ口を動かしただけで、すやすやと眠る様子にお姉さんと顔を見合わせて微笑みあった。 赤ちゃんがいるだけで、周りの空気まで優しい。ここに来るまで、あんなに緊張していた僕の心も、すっかり解された。 一緒に住んでいる恋人が、男の僕だなんて、お兄さんとお姉さんはどんな顔をするだろう……心配で少し怖かった。 なのに…… この家にお邪魔してすぐ、お兄さんとお姉さんに「俺の誰よりも大切な人」そう僕を紹介し、僕には「俺の兄さんと姉さん、これからは、お前にとっても兄さんと姉さんだから……」そう言ったあなた。 その言葉を聞いて、少し照れながら優しく迎えてくれたお兄さんとお姉さん。 そして可愛い天使…… こんなに幸せでいいのかな…… 「頂き物のマスカットがあるのよ」 そう言ってお姉さんがキッチンに向かっても、僕は赤ちゃんを見ていたくて、ベビーベットの側にいた。 お姉さんがマスカットをダイニングテーブルに置くと、賑やかになるあなたとお兄さん。 ここに来てから、ずっと続いてる不思議な気持ち。 いつも、僕を甘やかせてくれるあなたが、お兄さんの前では、当たり前だけど弟の顔をしている。 僕には見せないその表情が、少し幼くて、なんだかくすぐったい。 まだまだ僕の知らない、あなたがいるんだな…… 僕が知っているあなたは、ほんの一部分なのかも。ご両親といる、息子のあなたはどんなだろう…… 僕の視線に気づいて、ベビーベットの側に来るあなた。可愛い天使の頬を指先でつんつんとつつく。 「……早く起きて…遊ぼうぜ」 あなたの声に、ふぇっと小さい声を出した天使がぐにゃぐにゃと動き出した。 「お!起きるか?」 嬉しそうな声。 眠そうに瞼を開ける天使。僕に初めて目を開けた姿を見せてくれた。 その瞳があなたに似てる………? お兄さんにもお姉さんにも、もちろん似てるんだけど……… 急に起こされて、だんだんと不機嫌になっていく天使が、とうとう声をあげて泣き出した。 あなたが抱き上げてあやすと、あっという間に泣き止んだ。 「ほら、お前のもう一人のおじさんだぞ」 天使の小さな手を僕の頬に触れさせる。 「抱いてみるか?」 「……いいのかな?」 後ろを振り向くと、お姉さんがもちろんと言ってくれた。 あなたの手から赤ちゃんを抱き上げると、じっと僕の顔を見てる。 「泣いちゃうかな」 抱きかたがよく分からなくて、戸惑う。 「大丈夫、お前のこと気に入ったみたいだぞ」 赤ちゃんを抱く手に、そっと重ねられた手。 顔を上げると、そこには僕しか知らない恋人の顔をしたあなたがいた。 「……んまぁ」 僕を見て声を出した天使。 あなたに似た大きな瞳に挨拶をしよう……… 「こちらこそ、よろしくね」
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