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20
小さな小さな手をぎゅっと握って眠る天使。
口に咥えてるおしゃぶりが、時々ちゅぱちゅぱと音を立てて動く。
「………可愛い」
ベビーベットの中の赤ちゃん。やっと会いに来れたよ……
あなたの目に入れても痛くない甥っ子。何度も僕に会わせたいと言っていた天使。
「………よく寝てるでしょ」
ふわふわとした少し茶色い髪を優しく撫でながらお姉さんが呟く。
「……はい……よく寝てますね」
僕もそっと、その小さな手に触れてみた。
二人で触れているのに、やっぱりちゅぱちゅぱ口を動かしただけで、すやすやと眠る様子にお姉さんと顔を見合わせて微笑みあった。
赤ちゃんがいるだけで、周りの空気まで優しい。ここに来るまで、あんなに緊張していた僕の心も、すっかり解された。
一緒に住んでいる恋人が、男の僕だなんて、お兄さんとお姉さんはどんな顔をするだろう……心配で少し怖かった。
なのに……
この家にお邪魔してすぐ、お兄さんとお姉さんに「俺の誰よりも大切な人」そう僕を紹介し、僕には「俺の兄さんと姉さん、これからは、お前にとっても兄さんと姉さんだから……」そう言ったあなた。
その言葉を聞いて、少し照れながら優しく迎えてくれたお兄さんとお姉さん。
そして可愛い天使……
こんなに幸せでいいのかな……
「頂き物のマスカットがあるのよ」
そう言ってお姉さんがキッチンに向かっても、僕は赤ちゃんを見ていたくて、ベビーベットの側にいた。
お姉さんがマスカットをダイニングテーブルに置くと、賑やかになるあなたとお兄さん。
ここに来てから、ずっと続いてる不思議な気持ち。
いつも、僕を甘やかせてくれるあなたが、お兄さんの前では、当たり前だけど弟の顔をしている。
僕には見せないその表情が、少し幼くて、なんだかくすぐったい。
まだまだ僕の知らない、あなたがいるんだな……
僕が知っているあなたは、ほんの一部分なのかも。ご両親といる、息子のあなたはどんなだろう……
僕の視線に気づいて、ベビーベットの側に来るあなた。可愛い天使の頬を指先でつんつんとつつく。
「……早く起きて…遊ぼうぜ」
あなたの声に、ふぇっと小さい声を出した天使がぐにゃぐにゃと動き出した。
「お!起きるか?」
嬉しそうな声。
眠そうに瞼を開ける天使。僕に初めて目を開けた姿を見せてくれた。
その瞳があなたに似てる………?
お兄さんにもお姉さんにも、もちろん似てるんだけど………
急に起こされて、だんだんと不機嫌になっていく天使が、とうとう声をあげて泣き出した。
あなたが抱き上げてあやすと、あっという間に泣き止んだ。
「ほら、お前のもう一人のおじさんだぞ」
天使の小さな手を僕の頬に触れさせる。
「抱いてみるか?」
「……いいのかな?」
後ろを振り向くと、お姉さんがもちろんと言ってくれた。
あなたの手から赤ちゃんを抱き上げると、じっと僕の顔を見てる。
「泣いちゃうかな」
抱きかたがよく分からなくて、戸惑う。
「大丈夫、お前のこと気に入ったみたいだぞ」
赤ちゃんを抱く手に、そっと重ねられた手。
顔を上げると、そこには僕しか知らない恋人の顔をしたあなたがいた。
「……んまぁ」
僕を見て声を出した天使。
あなたに似た大きな瞳に挨拶をしよう………
「こちらこそ、よろしくね」
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