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「そうだ……有休届けに印鑑を押しておいたぞ」
書類を提出に行った僕に、部長がデスクの上の書類の束から、一枚の紙を手渡してきた。
「………有休?」
「最近、無理させてたからな。俺も悪いと思ってたんだ。ゆっくり休めよ」
「………はい」
一応返事をして受け取ってみたものの、頭の中に浮かぶ、はてな。
………僕、有休届けなんて出してないのに……
手にした用紙を見ると、そこには僕の名前が書かれ印鑑も押されてる。明後日から二日間。
う~ん、これは……
一人ぶつぶつ言いながらデスクに戻ると、隣の席から親友が話しかけてきた。
「なんか、やらかしたのか?」
「……違うよ」
「………じゃあ、その顔はなんだ?」
「……なぜか僕の知らないうちに、僕の有休届けが出されてた」
「………はぁ?」
「………」
「……お前が出さなくて、誰が出すんだよ」
「……だよね」
「………あっ!」
「……なに?」
「そういえば………」
何かを思いついた親友が、急にニヤニヤし始める。
「……なんだよ、教えろよ」
「……そういえば、一週間くらい前、残業でフロアに残ってたんだけど、お前の大事なあの人が、部長のデスクの側でうろうろしてたなって……」
「…………あの人が?」
「……うん。俺が声をかけたら、笑って誤魔化すように出て行ったんだ」
「……」
なんとなく……こんなことをするのは、あの人かなと思ってたけど……
なんでだろう……普通に一緒に休みを取ろうって言えばいいのに……
サプライズにしては、直ぐにバレるの、あの人なら分かりそうなのに………
家に帰って、問いただそうそう思っていたのに、「……今日は帰れない」というメッセージをくれたきり、電話もなくて次の日の朝を迎えた。
一応彼の着替えを手に、朝早く出社する。
どんなに遅くなっても、家には帰って来てたのに……
疑問を膨らませながら、彼の部署に行くと椅子の背もたれに凭れて腕を組んだまま、うとうととするあなたが居た。
…………徹夜したんだ
あなたのデスク以外は誰も居なくて………忙しいのはあなただけ?
もしかして……有休のため?
そっと近づき、肩に触れた。
「………んっ…」
重い目蓋を片目だけ開けたあなたが、隣に立つ僕を見上げた。
「……着替え持ってきたよ」
「……ああ……悪い……ありがと」
「……うん……あのさ……忙しいの?」
「……あ……うん……ちょっとな」
あなたの手が、肩に置いた手に重ねられる。
「……あんまり…無理しないで」
「……うん。………どうした?……寂しかったのか?」
優しく微笑んで僕の顔を覗き込む。
「………うん」
素直に頷くと、立ち上がったあなたにフワッと抱き締められた。
「……ごめん……今日は早く帰るから…」
あなたの腕の中が温かくて、僕は聞きたいことも聞けずにその背中に腕を回した。
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