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「お疲れ様、明日から楽しんでこいよ」 仕事を終えた親友が、帰り支度をしながら声をかけてきた。僕はまだ、少し仕事が残っている。 「……うん…ありがと」 「なんだよ……浮かない顔して」 「……まだ、何も聞いてないから…」 「……あの人の事だから、お前のための有休だろう……」 「……うん……そうは思ってるけど」 親友の手が僕の頭にのると、髪をぐちゃぐちゃと撫でられた。 「……ぐだぐだ考えてるなら、早く仕事を終わらせて、帰って聞いてみろ」 「…もう……分かってるよ」 手を払いのけて髪を整えながら言うと、手を振りながら軽い足どりで、フロアを出ていった。 その背中を見送って、直ぐにパソコンの画面を見つめた。 あいつの言うとおり、早く終わらせて帰らなきゃ…… 僕は明日からの休みの前に、やっておかなければならないことを、大急ぎで進めた。 「......ただいま」 いつもより少し遅くなった帰宅。玄関に入ると、リビングから現れたあなたが迎え入れてくれる。 「......お帰り」 ゆっくりと抱き締められて、あなたの匂いに安心する。 キスをねだる様に顔を上げると、啄む様なキスが降ってきた。 あなたの唇が額や鼻。頬や耳に音を立てて堕ちる。 「..........ククク..くすぐったいよ」 僕が身体を捩って逃げると、面白がって更に堕ちてくる唇。 「……ねえ……聞きたいことがあるんだけど」 僕の問いかけに、ハッとした顔で唇を離すと、 「....そうだ。時間が無いんだった」 そう言って、僕の背中をリビングに向かって押し始める。 「……ちょっと、待って……だから聞きたいことが……」 言いながらリビングに入ると、僕達のキャリーケースが広げられていた。 やっぱり、どこかに行くの? 「....さあ、急いで支度するぞ」 後ろから聞こえる声。 「ねえ。どこかに行くの?」 「ああ。お前も早く支度して」 「僕も?」 「そりゃそうだよ。俺一人で行かせる気か?」 「でも....行くって何処に?」 「......二人きりで旅行だ」 「.......旅行?」 「.....ああ。急がないと、今日の最終便に間に合わなくなる」 最終便?まさか飛行機? 僕に質問するタイミングも与えず、あなたが僕の物をどんどんキャリーケースに入れる。 「.......これでよし。出発するぞ」 あっという間に支度は終わり、僕はあなたに手を引かれ駐車場に降りた。車のトランクに荷物を入れ走り出す。 パスポートは持ってなかったから、国内だと思うんだけど....... 彼はニコニコしてるだけで、何も教えてくれない。 ………何なんだよ、行き先ぐらい教えてくれたって…… 平日の深夜の空港は、人も疎らだ。手を握られたまま足早に、カウンターに向かう。 「ギリギリだな」 そう呟くと更に速くなった足どり。 僕は相変わらず訳が分からず、連れていかれるだけ。 いったいどこに? 「....はい。チケット」 渡されたチケットを見て目を見開く。 長崎空港?僕達、長崎に行くの? ………なんで……僕のふるさと?
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