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彼が食堂のおじさんに、気に入ったメニューのレシピを聞いている。料理好きな彼は、家でも作ってくれるつもりらしい。
「......ああ。隠し味はそれですか」
おじさんが、企業秘密だよなんて言いながら彼に全部教えてて、僕も父さんも母さんも笑いが止まらなかった。
「また帰ってきた時は、二人でおいで」
なんて、まるで僕らの事を知ってるかの様なおじさんに、二人で「はい」と返事をした。
家に帰ると弟が帰ってきていて、僕達は母さんが入れたコーヒーを飲んで、ケーキを食べた。
不意に彼が、テーブルの下で僕の手を握る。
.........そうだった。
帰ってきたもう一つの目的。
「......あの.....お父さん.....今日は、もう一つお話があって」
彼が僕の手を、一度握り締めてから話し始めた。
「.......話?」
「.....はい...........実は僕達、少し前から一緒に暮らしています」
「............」
口許まで持っていっていたコーヒーカップを、そっとテーブルに置いた父さんが、僕の目を見るとゆっくり話し始めた。
「......親っていうのは、自分の子供を、どうしても自分の知ってる世界に押し込めたくなるんだ.......何故なら自分の知らない世界で、子供が悲しんだり、不幸になったりするのが怖いから......」
「............」
「.......だから......お前達の事は、自分の知らない世界すぎて、頭では認めようとしても、心がついていかなかった....」
「...........」
「......でも.....二人を見ていたら、私達と同じように、お互いを愛して大切にしている。
私達と何も変わらない......愛おしいと思う相手が同性だっただけなんだよな」
「.......父さん」
涙が勝手に頬を伝わる。テーブルの下の彼の手が、僕の指に絡む。
「.....お前が幸せで嬉しいよ」
僕の目を見ていた父さんの目が、彼の方を向く。
「......来年も再来年も、こうして二人でお祝いに来てくれるかな?」
「.......はい」
返事をする彼の声が震えていた。
「......良かったわね」
そう言って、母さんが僕の側に来て肩を抱いてくれた。
僕は、子供の頃にように母さんの胸で泣いた。
………大切な両親が、大好きな彼との幸せを理解してくれることが、こんなに嬉しいなんて………
顔を上げた僕の涙を拭いながら微笑む彼の目にも、涙が溜まっていた。
「.....僕、もっとケーキが食べたいんだけど」
弟の声に、皆が笑い。母さんが返事をして僕から離れていく。
............ありがとう。僕、本当に来て良かった.........
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