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「向こうは春が早いかな…」 段ボール箱を前に、俺のセーターを広げて持ったお前が呟く。 五日後に福岡に向かう。その前にある程度荷物を送らないといけない。俺達は休日を使って荷造りをしていた。 「うーん、あんまり変わらないだろう…」 「じゃあ、このセーターも持って行く?」 「……いや……それは置いておこうかな」 その一言にどこか嬉しそうに頷くお前。 さっきから、なかなか埋まらない段ボール箱。 「……あとは……」 クローゼットを覗く、その小さな背中を見て思う。 俺の物が減っていくのが嫌なんだろう…… 手伝っているつもりなんだろうけど、実際は思ってる以上に進んでない。 俺は立ち上がると、バスルームに向かった。洗面台の扉を開けると、一本の瓶を取り出した。 それを持って部屋に戻ると、お前に手渡す。 「これも入れておいて」 「……これは」 それは、お前が俺に抱かれる前に密かにつけているボディクリーム。 ハチミツの香りのそれは、舐めると少し甘くて……… 「俺がいなければ、お前には必要ないだろう……」 お前の白い肌が、見る見るうちにほんのり赤く染まっていく。 「…………」 「……これを塗って寝たら、お前と眠るみたいな気持ちになれそうだから」 「………」 立ち上がったお前が、俺から瓶を取り上げる。 「……持って行っちゃ駄目か?」 「………いいんだけど……まだ仕舞わないで」 「……どうして?」 「……だってまだ……あと五日間あるし……」 「……だから?」 「もう!分かってるでしょ」 少し拗ねた横顔が、部屋を出てバスルームに向う。 何度も何度もお前を抱いているのに…… その恥じらう姿が、俺を刺激する。 そっと後ろからついていき、背中から抱き締めた。 その首筋に唇をつけて舐める。 「………今……つけて」 「……まだ……昼間だよ」 「……つけてあげようか?」 「……荷物……まだ終わってないし……ンッ」 Tシャツの裾から片手を忍ばせ、その反応を伺う。 「………つけるから待ってて」 瓶に伸びた手が蓋を開ける様子を、鏡越しに見ながら、滑らかな肌を指先でなぞる。 人差し指に少しだけ掬ったクリームを自分の首筋に塗るお前が妖艶で、身体の芯がうずき出した。 甘く広がる香りは嗅ぎ慣れたかおりで、俺を直ぐに酔わせる。 「……ベッドに連れていってくれないの?」 鏡越しのおねだりは最強だった。顎を掬い顔だけ無理やり後ろを向かせると、唇を重ねる。 薄く開いた口が俺を招き入れ絡み合い始めたら、止まらなかった。 二人でベッドまで縺れるように脱がせあい、倒れ混む。 「ん……ン……ぁ……」 あと五日間…… 俺はお前を毎日抱くだろう…… この香りとお前に酔いしれ、ベッドから出してやれないかも知れない。 「……クリーム……毎日つけるから」 潤んだ瞳で俺を見るお前は、最高に綺麗だった。
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