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フロアーに響き渡る笑い声。
楽しそうな雰囲気が伝わるその場所を見ると、みんなの真ん中に、あなたが居た。
いつもそう、笑顔の中心にはあなたがいる。
なんとなく、目に入れたくなくて視線を逸らして、部屋を出た。
ガチャン!
僕のモヤモヤした気持ちが、伝わったかのように落ちてきたペットボトル。
「……冷たい」
心地よく冷えたそれを取り出すと、屋上に続く階段を上がった。
扉を開けると、蒸し暑い空気に包まれる。
水を口に含んで、空を見上げる。厚い雲と青空が交互に顔を出していて、あなたを好きになってから、くるくると変わる僕の心のよう。
なんで僕なんだろう………
あの人が僕と付き合ってるのが、未だに不思議でしょうがない。
明るくて楽しくて、優しくて頼りがいがあって……
みんなが、あなたの側にいたがる。
さっきなんか、掃除のおばちゃんが落とした雑巾をそっと拾ってカートにかけてた。
気づいたおばちゃんの眼差しに、笑顔でその場を離れたあなた。
ほらまたファンが増えた。
あなたを好きな気持ちが、どんどん大きくなって困る。
だってきっと………
今は僕の方が、あなたを好きな気持ちが大きいから。
「……やぁ……なにサボってるんだ」
背中に聞こえた優しい声を、聞こえないふりして空を見上げる。
フワッとあなたの香りに包まれて、背中が急に熱くなる。
「……暑いから」
お腹に回ったあなたの腕を、振りほどくふりだけして手を重ねた。
「……どうした?」
「……なにが?」
「………急に居なくなったから」
「……別に……外の空気が吸いたくなっただけ」
「……ふーん」
肩に置かれたあなたの顔が、首筋に添うように向きを変えるから、身体の中心が熱を持つ。
「………もう連れて帰りたい」
あなたの一言に、雲の隙間から晴れ間が覗いた……
やっぱり今日も、くるくる変わる僕の心と空模様。
僕は少しだけ振り返ると、あなたの頬に唇を寄せた。
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