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6月になって、毎日のように雨が降った。
雨の音は一人で聞くのがふさわしいと、朋子は思った。
雨音は一人になりたいという気持ちに寄り添って人を取り囲み、自分自身を他でもない自分の心で見つめ直し、本来の自分を取り戻すよう促す。
雨は空から地上に降って川や地下水となって海に注ぎ、水蒸気になって蒸発し雨雲になって雨となり……。
自然界の中で永遠に循環する。
雨は天空も地上もくまなく旅し、世界を知り尽くし、雨を厭う人、雨をこい願う人、錯綜する数多の思いを吸収して降る。
雨は時に豪雨となって人間に被害を与えるが、雨なしでは干ばつになって人間は滅びるだろう。
人間に不可欠な雨、鬱陶しさを呼び起こしがちな雨。
では、私の耳の中の雨音、私だけに聞こえる雨音は、一体どこから降ってくるのだろう。
聞きたくないという否定の感情に起因するこの雨音は。
雨音の中でもより陰鬱で負の音色だけを奏でるこの雨音は、やがて世界を消滅させると同時に、私自身の存在も消してしまうのだろうか。
耳の中で響く雨音に半ば依存し半ば妨害されながら、朋子は6月の丑三つ時に目覚めた。
ベッドに入るときも雨が降っていたから、まだ降っているのだろう。
そう思って再び眠ろうとしたが、そう簡単には眠れない。朦朧とした意識には、丑三つ時にまつわる幽霊など怪談じみた話がひっかかっていた。
背筋にゾッとする寒気が走り、気持ちをリセットするように朋子は起き上がって深呼吸をした。
その時、壁に掛った鏡の中で、何かが光った。
丑三つ時に鏡を見てはいけないという囁き声が床から立ち昇ったが、朋子はめげずに目を凝らした。
そしてその光がカーテンの隙間から差し込んでいることを突き止めた。
ほとんど衝動的に朋子はベッドから起き上がって、カーテンをサッと開けた。
すると、眩しいほどの光が一斉に彼女目がけて押し寄せ、一瞬目がくらんだ。工事現場の投光器かと思ったが、この辺一帯で工事している所はない。
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