腕時計

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雨の日、わたしは大切なものを壊してしまった。 とても好きだった腕時計。落として欠けてしまったベルトの破片に、ガラスの破片を重ね合わせて、出来るはずのない傷を指につくる。 何度か時計屋さんに預けたことのあるその時計。けれど今回ばかりはと、ベルトの欠けたソレは、今は時計箱の中で眠っている。たまにそれを机の上に置いて、時計の針が動くのを眺めるのだけれど、その日はいつも雨の日で、雨音を聞くと時計の針の音まで聞こえてくる気がする。どこにいても。 もう腕にはつけられない一番好きな腕時計。 どんなに好きでも、ダメなんだなと時計箱に入れたままのときもその箱を眺めながら思い、少し重かったし、よく色んなところにぶつけちゃってたし、と、同じようなものを探しながら、でもまだ見つかっていないソレに、今日はまた少し探しに行こうかなと、天気予報を確認する。ソレを時計屋さんで見つけたときの胸の高鳴りを思い出しながら。
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