俺と姉貴と唐揚げと

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 ふっくらとした体格の姉貴は、文化部女子でありながらもよく食べる。どれぐらい食べるかといえば、一般的に食欲の権化とされがちな育ち盛り運動部高校一年生男子である俺が、たまにドン引きするぐらい食べるといえば分かって貰えるだろうか。  かつては姉貴だからという理由で、容赦なく食べ物を取り上げられたこともある。  だが、いつまでも負けているだけじゃない。  高校一年生男子には、高校一年生男子としての食欲があるのだ。  それを押し殺してまで平穏に生きようなどと、俺は思わない。 「おい、家族分だからな。そこを理解しろよ? それと、家に帰ってきたら手洗いとうがいぐらいしろや」  先制のジャブは俺から放った。  なんたって今日は唐揚げの甘酢あんかけだ。  本来であれば一人占めしたいほどの好物だからこそ、守りに入ってはならないのだ。 「とっくにしたわよ。この濡れた手を見てからものを言いなさい脳筋。あんたこそ分け与える精神というものを少しは持つのね」  どの口が言いやがる。  器まで抱え込んで食べている姿を見たことがないとでも思っているのだろうか。 「汗だろ」 「口に手を突っ込んでやってもいいけど?」  しばしのにらみ合い。 「ほら、二人とも。夕飯はもうちょっとかかるから、それまで勉強でもしてて」  本格的に口げんかになる前に、母さんがそれにストップをかけた。  晩飯前のこの時間。台所を預かる母さんには向かうなど愚か者のする事だ。  俺も姉貴も一時休戦とし、自室へと引っ込むことにした。  目を合わせればけんかになる。  飯前のけんかが元で夕飯抜きなどとなっては本末転倒だ。それよりも準備をしっかりしなければ。  練習試合なんかよりはるかに緊張している。それほどまでに厳しい戦いが予想された。
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