ささやかな雨音のような

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それから月日が流れて、彼と顔を合わせる機会も結婚したことを機になくなった。妻が度々夜に飲みに行くのは如何なものかと自分で思っただけで、夫から何かを言われたわけでもなかった。夫は私を縛らない。夫自身が縛られること、強制されることを嫌うからなのだろう。声が低くて、包み込んでくれるように優しい夫。 私のこの思いは、きっと裏切りになるのだろう。それでも、実行に起こさなければ裏切りではない、と自分に言い聞かせた。ふいに浮かぶものを消すことなどできないのだから。 週末は夫とよく出掛ける。それは買い物だったり映画鑑賞であったり、たまに少し遠出をして美味しい物を食べに行ったりする。私がどこかに行きたいと言い出すのはごく稀で、基本は夫の提案についていく。その度に、この人と一緒になって良かったと思わされる。いつだって一人でいると私の腰は重く、休日に出掛けるという習慣がないのだ。外に出て人と触れ合い、見聞を広げることができるのは夫のお陰なのだ。 「弥生が前に気になってるって言ってた映画、そろそろ空いてるだろうから行く?」 いつかにポロッと話したことを、夫はよく覚えていてくれる。そういう時、私はいつも感動してしまう。私の記憶力はみじんこ並なのだ。同じことを夫にもしてあげたいと思うのに、できたためしはない。 「覚えてくれてたんだ。行く!」 そうしてその日も一緒に映画に行った。かなり時間に余裕をもって行ったので、ハンバーガーショップで軽めの昼食をとった。ハンバーガーを夫は2つ、私は1つ。それと大きめのドリンクを頼んで、ドリンクは映画館に持って入った。
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