ささやかな雨音のような

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 夜、夫の横で眠りにつくときいつも思う。この夫婦生活はいつまで続けられるのだろうかと。そもそも、そんなことを考えるような不穏な事態は一つだって起こっていない。ただ、これまでに付き合ってきた男達と長続きしたことがないのが心配性の原因なのだろう。そんなこと、分かっている。そしてナーヴァスになっているわけでもなかった。 「なに、まだ寝てなかったんだ」  イヤホンをしてゲームをしていた夫がこちらの視線に気づいた。 「なんか全然眠れなくて」  そう言って、夫の唇を掠めとる。おやすみのキスは自然と毎日はしなくなった。私がしたいときにする。それを夫は嫌がりもしない代わりに、夫からしてくれることもほとんどない。そういう人なのは付き合い始めた頃から知っていた。キスが愛情のパラメーターではない、とこの人と居るようになって分かった。 「でも寝ないと明日の仕事がきつくなるから頑張って寝る」  私がそう言うと、 「目瞑ってるだけでもだいぶ違うらしいから、あんま寝よう寝ようとしなくてもいいんじゃない?逆に疲れちゃうよ」 優しくそう返してくれる。この人を、本当に愛おしいと思う。 「うん、そうする。おやすみなさい」 「おやすみ」  マンションの前の道路を走る車の音で雨が降っているのが分かった。耳を澄ますと微かに雨音が聞こえる。雨の日はなぜか頭が休まってくれない。  私の中にはふいに掠めるように浮かぶ人がいる。もし夫と別れたとしたら、その人との未来はあるのだろうかと考えるような人。今はもちろん何もない。夫と付き合う以前は少しだけ関係があっただけの人。この関係を、人は何と呼ぶのだろうか。
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