ささやかな雨音のような

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彼との関係はいつだってさっぱりしたものだった。会えばどれだけでも話ができたし、そこにはいつだってお酒があった。お酒の勢いでそれなりな関係にもなったけれど、好き、という感情がそこにはないものだとばかり思っていた。 彼が情事の最中に好きと言ったのは、酔って寝て起きた後のことだった。好きと言葉にしないことが面倒を避ける必須条件だとばかり思っていたのに、彼はこともなげに好きと言った。 「好きだよ」 その一言で、私は身体だけの関係じゃなかったのかと思った。 「好きだったの?」 だから思わずそう聞いてしまった。 「そりゃ、好きだよ」 またそう返された。そういうスタンスでいいのか、と戸惑いながら受け入れた。だって、私も彼のことが好きだったから。 それから、好きとは言うけれど付き合う関係にはならぬまま月日を過ごした。そして、現夫に出逢うことになったのだ。 関係は終わっても、お酒の席で顔を合わせることがあればいくらでも話はしたし、もちろん相手ができたことも話した。なのに少しの違和もなく、私達はいつも通りを過ごしせてしまった。情事がないだけで。 そのあまりの普通さに内心驚いたのは、きっと私だけなのだろう。彼は「そうなんだ、おめでとう」と言ってくれて、同棲のための引っ越しに関して相談にさえ乗ってくれた。彼のことはもう何年も見ているのに、未だに宇宙人だと思う。なにを考えてどう思っているのか、まるで見当も付かない宇宙人。
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