出会い

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「あ~に~きぃ~!」 キッと睨んで二人を見ると 「ほら!翔が余計な事を言うから、章三にバレたじゃないか!」 と、兄貴が翔さんに文句を言っている。 俺はドアに向かうと 「風紀委員の邪魔しないで下さい!」 そう叫んでドアを荒々しく閉めた。 閉めて……(あっ、荻野と二人きりになっちゃう)と思った瞬間 「章三、荻野と二人きりはダメだ!」 と、慌ててドアを開けて叫んだ。 「うるさいな!俺は男なんだから、荻野と二人だろうが大丈夫だ!」 「ダメだ!そいつは飢えた狼だ!可愛いウサギちゃんの章三は頭から食べられちゃうだろう!」 「なんで俺がウサギちゃんなんだよ!それは兄貴だろう!俺は自分の身は、自分で護れる!」 「そいつは常に他校生と喧嘩してるような奴だぞ!章三の力じゃ無理だ!」 ドアの中と外で、ドアを開けようとする兄貴と、閉めようとする俺の攻防が繰り広げられている。 それを、呆れた顔をして見ている翔さんと荻野。 「赤地……」 ポツリと呟いた荻野の声に、俺と兄貴が一斉に振り向き 「何?」 「何だよ!」 と叫ぶと、荻野はポカンとした顔をした後、「プッ」と吹き出し 「同じ顔して振り向きやがった」 なんて言って笑い出したのだ。 すると、兄貴の後ろに立っていた翔さんまで笑い出したではないか! 「え!似てる?」 嬉しそうな顔をする兄貴に反し、嫌そうな顔をした俺に 「章三……なんで嫌そうな顔をするんだよ」 と兄貴が唇を尖らせて呟くので 「え?俺、こんな女顔してねぇもん」 そう答えると 「お前……いつからそんな生意気な口を……」 と言いながら俺の頬を左右に引っ張った。 「いひゃい(痛い)な!」 兄貴の手を振り払うと、旧体育倉庫という名の荻野の溜まり場にあるソファーベッドから荻野はゆっくりと立ち上がり、制服のシャツのボタンをはめてネクタイを締めながら俺の背後に立った。 「お!一緒に午後の授業に出るのか?」 兄貴が荻野に声を掛けると 「まぁな。もう少し、兄弟漫才を見たかったけどな」 なんて答えたのだ。 「誰が兄弟漫才だよ!」 思わず兄貴とハモって叫ぶと 「ほらな、そっくりな表情するだろう?」 って、肩を窄めて荻野が翔さんに呟いた。 「そうだね。普段、蒼介と章三は全く似ていないけど、時折、同じ表情するよね」 と言って笑っている。 俺が口をへの字にしていると 「ほら、そういう表情がそっくりなんだよ」 そう言って俺の額を人差し指で押して笑う翔さんにムクれると、突然、背後から荻野に抱き寄せられた。 「え?何?」 驚く俺に、荻野が翔さんに 「気安く触るんじゃねぇよ!」 と低く唸ると、兄貴が荻野の額にデコピンして 「荻野、お前もな!」 って言うと、荻野の腕から俺の身体を引き寄せて背中に隠した。
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