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「そんなもの、見せられても面白くも何ともない」
顔色も変えずに呟いた俺に
「へぇ……神崎限定か?」
ポツリと耳元で囁かれ
「な!」
真っ赤になって見上げると、荻野先輩はニヤリと笑っている。
「お~ぎ~の~!初っ端から、新入生を揶揄うな!」
そんな俺達を見て、末長風紀委員長が荻野先輩の頭にチョップすると
「ごめんな、赤地君。こいつ、根は良い奴なんだけどね」
そう言って苦笑いを浮かべた。
「はぁ……」
曖昧な返事を返しながら、何故、コイツが葵の事を知っているのか?
葵に危害を加えないか?が心配だった。
「え?荻野があおちゃんに何かしないか心配だって?」
帰宅してから兄貴に相談すると、驚いた顔をされた。
「大丈夫じゃない? あいつ、自分に直接被害を加えない限りは基本無視だよ」
と答えて受け合わない。
何故、兄貴や末長風紀委員長がそんなに信頼しているのか疑問だったが、それが杞憂だと直ぐに分かる。
「よぉ、風紀委員」
葵と通学していると、背後から現れて絡むのは俺にだけだった。
「おい、俺の名前は赤地章三だ。変な呼び方するな」
眉間に皺を寄せて返す俺の反応が楽しいのか、あの日以来、荻野は毎朝俺に絡むようになった。
しかし、隣の葵に対しては空気のように扱う。
「荻野先輩、おはようございます」
笑顔で挨拶する葵を無視して、毎度毎度俺の肩に肘を乗せて絡んでくる。
「荻野、うぜぇ!」
1ヶ月が経過する頃には、俺は荻野先輩を呼び捨てにするようになっていた。
「遅刻常習犯だった奴が、随分マジメになったじゃないか」
毎朝、校門に立つ末長風紀委員長は笑顔でそう言うと
「じゃあ、これからは赤地君が荻野担当ね」
なんて言い出した。
「はぁ!」
叫んだ俺に
「昼休みには、裏庭にある旧体育倉庫に荻野が居るから、きちんと午後の授業を受けさせてね」
と言うと、俺の肩をポンっと叩いて
「いやぁ~、助かるよ。アイツの事を怖がって、誰もやってくれなくてさぁ~」
なんて言って笑っている。
実際、品行方正な学校に、ヤンキーがいる事自体が異例だ。
場所の案内を兼ねて、5時限目開始15分前に裏庭の旧体育倉庫に連れて来られた。
「まず、開ける前に……」
そう言うと、体育倉庫のドアを蹴飛ばし
「荻野!僕だ。赤地君も連れて来た。入るぞ!」
と叫び、時計を見始めた。
何故、直ぐに入らないのだろう?と思っていると
「5分経過したな。よし」
そう呟き、引き戸をゆっくりと開いた。
するとタバコの匂いと煙で白い世界が、ゆっくりとクリアになる。
タバコの匂いに腕で鼻を隠す。
現れたのは、上半身裸に肩からシャツを掛けている荻野と、いかにも事後ですという感じの他校生の女子だった。
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