幼い頃の記憶

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 幼い頃、俺の世界は葵が全てだった。 俺が葵を追い掛け、葵が兄貴を追い掛ける。 それが俺達の関係性だった。  小学校に上がると、俺はクラスの友達と一緒に泥んこになって日が暮れるまで走り回っていて、一度、葵も巻き込んで遊んだら、葵が翌日に熱を出して寝込んでしまった事があった。 お袋から「あんたとあおちゃんを一緒に考えちゃダメでしょう!」と叱られ、それでも葵は 「章三、又一緒に遊んでね」 と言ってくれた。 ベッドから差し出された手が、同じ歳なのに小さく感じたのを覚えている。 その日から、サッカーや野球で遊ぶ時は葵を仲間には入れなかった。 自宅まで葵を届けると、俺はランドセルを葵の家に預けて一人で外に出掛けた。 「一緒に行く」と泣いていた葵を置いて行くのは辛かったけど「元気になったらな」って約束をして外に出掛けて行った。 そんな頃、出会ったのが「ケイ」だった。 俺達が遊んでいるのを、いつも金網の外から見ている奴だった。 兄貴とは違う、ハーフ特有の日本人離れした綺麗な顔をした「ケイ」は、いつも羨ましそうに俺達を見ていた。 「ケイ」の隣にはいつも、母親が日傘で立っていた。明らかに日本人じゃない母親と、日本人離れしたお人形さんのように綺麗な顔をした「ケイ」 母親がいつも「ケイ」と呼んでいたので、知らず知らずに名前を覚えていた。 そんなある日、仲間の蹴ったボールが「ケイ」の所へと転がって行った。 「すみません」 頭を下げて近付くと、「ケイ」は母親の後ろに隠れてしまう。 「ほら、ケイ。恥ずかしがっていちゃ、仲良くなれないよ」 後ろに隠れているケイを前に出そうとする母親に、ケイが泣きそうな顔をして首を横に振っている。 小さな 「だって、嫌われるもん」 今にも消えそうな声が聞こえて来て、他人と違うと虐められている兄貴を思い出してしまい 「ねぇ、一緒に遊ぼう」 と、気付いたら手を差し出していた。 グレーの瞳が見開かれ 「良いの?」 って聞いて来る。 俺が笑顔で頷くと、「ケイ」は天使のような笑顔を浮かべた。 「ありがとう、ショーゾー」 多分、みんなが呼んでいるのを聞き覚えたのだろう。 たどたどしい呼び方に、なんか胸がムズムズしたのを覚えている。 他の学校に通っているらしく、放課後になると「ケイ」は学校に来て俺達と遅くなるまで遊んだ。 「章三、章三!」 何処に行くのも、俺の後ろにくっ付いて歩く「ケイ」に、兄貴が葵を可愛がる気持ちが理解出来た。 このままずっと、俺達は友達なんだと思っていた……。 「ケイ」と出会って半年が過ぎた頃、葵も少しずつ俺達と一緒に遊べる回数が増えて来た。 すると「ケイ」は葵にヤキモチを妬いて 「章三は僕の!」 と、何故か俺を取り合うという謎のオプションまで着いて来た。
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