幼い頃の記憶

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でも、そんなある日、「ケイ」が身綺麗な格好をして現れ 「章三、僕……おじい様の家に行かなくちゃ行けなくなったんだ」 そう呟いた。 「え?」 「おじい様のお家、ここから遠いんだ。だから、もう章三に会えない」 グレーの綺麗な瞳から、幾つも涙を零して泣いていた「ケイ」 「サッカー」 「え?」 「サッカーを続けていれば、試合で会えるだろう。だから、サッカーをお互いに続けていようぜ」 そう言って指切りをした。 葵の事は、相変わらず嫌いだったみたいで、俺に抱き着いた後、葵にはあかんべしていたっけ。 「章三、章三」 可愛い笑顔を浮かべ、俺の背中を追い掛けていた姿が無くなった後、俺の心にはポッカリと穴が空いたみたいだった。    あれから月日は流れ、小学校中学校とサッカーを続けたが、「ケイ」は俺の前には現れる事は無かった。 いつしか俺も「ケイ」の存在を忘れ、葵への想いを拗らせていた。 初めて夢精したのは、葵を抱く夢だった。 一点の曇りも無い葵の笑顔が、俺の醜い心を責めているように思えた事もあった。 それで俺は、逃げるように彼女を作った。 中学時代、サッカー部だった事から女の子からの告白は結構されていた。 そんな中で、葵に良く似た女の子と付き合い出すと、察しの良い兄貴に 「章三って、あおちゃんに似た子とばかり付き合っているな。本当に好きで付き合っているなら良いけど、身代わりにしているなら止めろよ。相手の子が可哀想だろう」 と言われてしまう。 彼女を抱いていても、俺は葵を重ねていた。 それでも、葵にこの欲望を向けるよりはマシだと思っていたんだ。 だけど、長くても半年が経過した頃には彼女たちから去って行く。 まぁ、俺の最優先が葵だから、彼女と約束をしていても、葵が兄貴と約束して泊まりに来る事になればキャンセルをしていた。 だから、大概別れ際に「最低」と言われて別れて来た。 いつだったか、葵に 「章三、お前さ……少し考えを改めないと刺されるよ」 と言われた程だった。 葵にとって俺は単なる幼馴染みで、兄貴のオマケ的存在だとしても……、それでもいつか振り向いて貰えるんじゃないかと思っていたんだ。 いつだって葵を守って来たし、葵もそれを分かっていた。 だから葵は俺を頼りにしてくれていたし、俺もどんなに女子と揉めても葵に被害が及ばないようにして来たし、守ってもいた。 だから、まだ恋愛に興味の無い葵に恋心というものが芽生えたら、その相手は俺なんだと信じて疑わなかったんだ。
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