幼い頃の記憶

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 それが俺の一方的な勘違いだと知ったのは、中学2年の時だった。  兄貴は中学時代の親友だと思っていた奴に裏切られ、強姦未遂に遭った。 元々、自分の容姿にコンプレックスを持っていた兄貴は、あまりのショックに俺達以外には心を閉ざしてしまう。 中学卒業まで誰にも心を許さず、俺も葵も心配だった。 進路も途中で変更して、葵の母親である京子さんの出身校に特待生入学をする事を選んだ程だ。 桐楠大学附属高等学校 地元では知らない人が居ない、お嬢様お坊ちゃま学校だ。 学費がべらぼうに高いし、外部入学は卒業生の推薦状が無いと受験も出来ないような学校だ。 兄貴は地元から誰も行かないのを確認して、滑り止め無しで受験した。 特待生で受からなかったら、通信制の学校に行くとまで言い出し、口には出さなかったけど、親父もお袋も心配していたっけ。 そんな兄貴が無事に桐楠大学附属高等学校に特待生として入学が決まり、親父とお袋が泣いて喜んだ程だ。 そして入学して間も無く、兄貴は友達と言って秋月翔さんを連れて来た。 短髪の爽やかなスポーツマンタイプで、めちゃくちゃイケメンだった。 金持ちで爽やかなスポーツマンタイプのイケメンである翔さんは、悔しいけど性格も優しくておおらかな人で、俺はこういう兄貴が欲しかった!と言いたくなる程に良い人だった。 俺と一緒に夜中までゲームに付き合ってくれて、二人でリビングで寝落ちしたり。 サッカーの練習に付き合ってくれたり。 俺が実の兄貴より懐くもんだから、兄貴が翔さんに意味不明な嫌がらせをする位だった。 でも、俺には翔さんに不安要素があった。 いつも葵が来ると、葵を見る目に俺や兄貴には向けない熱がこもっているように思えたんだ。 葵は当初 「蒼ちゃんを独り占めするから嫌い!」 と言っていたのに、いつの間にか二人の交わす視線が同じ熱量になっていた。 その時、ぼんやりと「運命」という言葉が俺の脳裏を過った。 それでも俺は認めたくなくて、中学でサッカーを辞めて、葵の傍に居る為に髪の毛を伸ばして陰キャを演じる事にした。 この二人が運命なら、ずっと葵の隣に居た俺だって運命の筈だ!と……。(だったら、ずっと懐かれている兄貴の方が運命じゃないのか?と言いたいだろうが、それはあえて却下させてもらう) そう自分に言い聞かせて、翔さんと葵の関係を認めたくなかったんだ。 そして俺も又、葵を追い掛けて桐楠大学附属高等学校に特待生として入学した。 葵は一般学生として入学して、俺は高校から挽回してやるんだと……そう心に決めて桐楠大学附属高等学校に入学したんだ。
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