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狡い俺はそれを良い事に、二人がお互いの感情に気付かないように仕向けている。
告白する勇気も無いくせに、こういうずる賢い自分が嫌になる。
「はぁ……」
小さく溜息を吐いた俺に
「章三?」
そんな俺に気付いた葵が、心配そうな顔をして俺を見上げた。
「朝、早いし、俺が風紀委員の当番の時は、翔さんの車に乗せて貰って登校したらどうだ?」
本当は嫌な気持ちに蓋をして、笑顔を作って言った俺に、葵はジッと俺の顔を見た後
「いや、やっぱり章三に合わせて早く行くよ」
そう言い出したのだ。
「え?」
葵以外の全員が、驚いて呟くと
「章三はこう見えて、寂しがり屋さんだからな!俺が蒼ちゃんにベッタリになると、直ぐにへそ曲げるんだ。優しい俺としては、章三と一緒に登校してあげようと思う。感謝したまえ」
冗談ぽく言うと、ニカッと笑った。
葵のこういう所に、いつも救われる。
「良いのか? かなり早いぞ」
「まぁ……、起きれたら?」
そう言って笑うと、兄貴と翔さんの方へと向き直し
「なので、起きられなくて寝坊したら、蒼ちゃんと一緒に車に乗せて下さい」
と言うと、葵は兄貴と翔さんにペコリとお辞儀した。
すると兄貴は葵に抱き着き
「あおちゃんは、本当に天使みたいだね!僕だったら、ラッキーって同乗しちゃうのに」
なんて言っているが、兄貴も翔さんの車で送迎してもらうのを最初は遠慮していたのを俺は知っている。
血を分けた兄弟なのは俺だけど、過ごした時間が長いせいなのか、兄貴と葵は何処か似ているような気がする。
だからなのか、俺より葵が兄貴の弟と間違われる事が多い。
翔さんもうちに来た当初、葵を兄貴の弟だと勘違いしていたからな。
そんな訳で、葵は俺に付き合ってひと月半に1回の当番の時は、一緒に朝早く通学する事になった。
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