「来たよー聖良ちゃん」

1/2
前へ
/16ページ
次へ

「来たよー聖良ちゃん」

 みみこは、腕にひと抱えもある大きなカゴを、えっちらおっちら運んできた。聖良はドアを開けて、中に招き入れてやる。 「いらっしゃい。これがリューイチくん?」  カゴの中には、真っ黒な塊がうずくまっていた。眠っているのだろうか。じっとして動く様子はない。  みみこは、カゴを静かにフローリングの床に置くと、 「お茶を淹れてきますね。待っててくださいね」  と猫に敬語で話しかけ、 「お台所はこっちかしら」  なんて言って、ひとの家のキッチンで勝手にお湯を沸かし始めた。許可も取らずに冷蔵庫を開け、牛乳を取り出してくる。 「最近はリューイチ、ロイヤルミルクティーがお気に入りでさ」 「へえ、そうなの」  聖良は頬がぴくぴくするのを止められなかった。しかし聖良が怒鳴り出す前に、みみこは、 「どーぞ」  と、聖良の前にも紅茶を置いてくれる。それからリューイチの前にも。ただし聖良にはマグカップで、リューイチにはウェッジウッドのティーカップだ。  続いてみみこは、聖良に媚びるような上目遣いを向けてきて、 「お茶うけに、クッキーとかないかしら」 「あんたねえ」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加