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「ウチの猫、時々しゃべるけど、気にしないでね」
意味不明な言葉を残して、みみこは温泉旅行に出かけていった。
ドアを閉めて部屋を振り返ると、さっきまで動こうとしなかったリューイチがカゴにいない。姿を探せば、窓際に置いてある聖良のベッドの上から、階下の玄関アプローチを見下ろしていた。そこからは、浮かれて出かけていくみみこの姿が見えるはずだ。
『もしかして、置いて行ったこと、バレちゃってる?』
頭のいい猫には違いない。
リューイチが窓枠に足をかけたせいで、そこに飾ってあった彼との写真が下に落ちてしまっていた。聖良が写真立てを拾いあげ、もとの位置に戻していると、部屋のドアフォンが鳴った。
聖良のマンションは、アプローチから部屋番号を呼び出し、自動ドアのロックを解除するタイプだ。だが今鳴ったのは部屋のドアフォン。ということは、
「みみこのやつ、忘れ物でもしたかな」
苦笑しながらドアフォンにこたえた。すると、
「宅配便です」
小さなカメラに、お馴染みの宅配便の帽子をかぶった男が映っている。そういえば、みみこがリューイチの荷物を後で届けると言っていたっけ。聖良は玄関に行って、ドアの鍵を外した。
廊下にいたのは、両手にダンボールを抱えた宅配便の男だ。聖良はドアを大きく開けて、男を中へ招き入れようとしたが、
「うわっ!」
男は悲鳴をあげて後退る。
「……それ、何ですか?」
男の視線を追って足元を見れば、いつの間にか、聖良の横にはリューイチが来ていた。聖良の隣に並んで、四つ足で立っている。
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