「マグロは少し焼いてあげてね」

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「マグロは少し焼いてあげてね」

 箱の中に入っていたみみこの手紙に、聖良は絶句する。  みみこからの荷物はクール便で、中にはマグロの柵どりとヒラメの刺身が入っていた。最初は聖良へのプレゼントかと喜んだが、お刺身の他には猫缶やキャットフードが入っていない。  まさかと思って、同封されていたみみこの手紙を読んでみれば、やっぱり、それらをつかったリューイチ用の食事レシピがこと細かく書いてあった。 「あんた、いいもの食ってんのね」  思わず呟いたら、リューイチはこちらを見て、鼻でふっと笑った。聖良は慌てて頭を振る。目の錯覚だ。第一猫は笑わない。みみこは、「リューイチは私のこと、バカにしきった目で見てくる」とか、「召使い以下だと思ってる」なんて風に言っていたが、 そういうのは、飼い主の欲目にすぎないのだ。  リューイチ用の猫皿に、マグロの炙りとヒラメの刺身を乗せて、 「リューイチ、ご飯だよ」  キッチンから呼んでみたが、リューイチは、聖良のベッドにのぼったままで、こちらに来る様子はない。 「勝手にしろ」  と毒づいて、 はたと肝心なものが箱に入っていなかったことを思い出した。猫砂と猫トイレだ。食事をすれば出るものは出る。なのにトイレが無いなんて、一体どうすればいいのだろう。  しかし、みみこの手紙の続きに、ちゃんと書いてあった。 「リューイチは人間のトイレを使います。気を回して、新聞紙なんか用意すると、怒って噛んでくるから注意」  どんな猫だよ。  実際にトイレを使っている姿を撮影して、SNSにあげてやろうかと企んだが、 「シャーッ!」  とリューイチに牙を剥かれたので諦めた。まるで、こっちの心が読めるみたいな猫だ。
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