「お願い聖良ちゃん。ウチの猫預かってくれない?」

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「お願い聖良ちゃん。ウチの猫預かってくれない?」

 それは、幼なじみからかかってきた、一本の電話で始まった。 「みみこ久しぶり。猫を預かるって、あんた旅行でも行くの?」 「うん。福引きで温泉旅行ゲットしたんだけど、さすがに猫は連れていけないでしょ。でもせっかくタダ飯食らえるチャンスだから、絶対に行きたいの。だけどリューイチに黙って出かけてもきっとばれる。ばれたら後が怖い」  聖良は置いてけぼりにされたペットが部屋を荒らし、トイレ以外の場所で粗相して、飼い主を嘆かせるSNSの動画を思い浮かべた。 「拗ねて暴れるなんて、可愛い猫ちゃんじゃない」  聖良は笑ったが、みみこは、 「可愛くないわよ、怖いわよ」  怖いって二回言った。しかも、 「リューイチを怒らせたら、何されるかわかったもんじゃないわ」  みみこは真剣な声で念を押す。 「大げさねえ」  聖良は苦笑して、 「ペットホテルはどうなの」  聞いてみたが、 「ホテルなんて絶対無理。そんなとこに預けて何かあったら、誰が責任取ってくれるのよ」  心配性すぎる返事に空いた口が塞がらなくなる。学生時代の彼女は、こんなにも動物好きだっただろうか。  みみこは続けて、猫なで声で言った。 「リューイチは子どもが嫌いだから家族持ちには頼めないし、ましてや独り暮らしの女性はなおさらだめ。もう彼氏と同棲中でラブラブの聖良ちゃんにしか頼めないの。そんでもって聖良ちゃんはとびきりの美人さんでしょ。だからリューイチも、きっとおとなしく居てくれると思うの。お願い聖良ちゃん。リューイチのこと預かって」  ストレートに美人だと褒められて、悪い気はしない。聖良が、 「別に、もうラブラブでもないんだけどね」  と、もごもご言っている間に、なぜだか預かることになってしまった。
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