コップフキーノ

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「お帰りなさいませ」  ヨピさんの声に顔をあげると私は喫茶店のカウンターに座っていた。 「どうでした? Kopfkinoのお味は」 「……とてもおいしかったです」  私は微笑んだ。微笑もうとしたわけではなく、頬が緩んだようなほっこりした気分だった。 *  喫茶店を出るとまだ雨は降っていた。ヨピさん曰く、いつでも店は開いているという。初老の店員、もといタモツさんの作るサンドウィッチも絶品だというのでまた来る約束をした。 入口の傘立てでぐちゃりとよれている一本の傘は怯えているように見えた。雑に扱ってしまったビニール傘に「ごめんね」と謝って思い切り空に広げる。 コップフキーノ、コップフキーノ。不思議な発音を思わず口ずさむ。 私はふかふかの雪原を一番に歩くような心持ちで、雨音の中に飛び込んだ。   完
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