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カランコロン。音がした。カランコロン。まただ。
耳の奥、頭に響くのに不快どころかむしろ心地よい音色はオーガニック食品店の二階から聞こえた。二階に続く階段は建物の外にあった。薄い黄色の手すりを握ったらサビが付きそうな鉄製の階段。工場みたいだ、行ったことはないけど。昇りきると昔ながらの喫茶店があった。
「Gemütlichkeit」
看板に書いてある文字は全く読めない。そもそも何語? まあいっか、早く嘲笑の囲いから抜け出したい。庇に入るのと同時に傘を閉じる。ろくにストラップを留めもせず、無造作に傘立てに突っ込んだ。扉を押す。カランコロン、音がする。ドアベルの音だったのか。店内は木目調の家具で揃っている、まさに喫茶店だというのにどこかしっくりこない。なんだろう。
「いらっしゃいませ」
穏やかな声で迎えてくれたのはユニセックスな雰囲気、長髪、30代だか10代だかわからないミステリアスな店員だった。シンプルなシャツと黒いスラックス、エプロンがよく似合う。
「初めてですね。カウンターとテーブルどちらになさいますか」
「え、はい。テ……カウンターで」
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