コップフキーノ

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 驚いた。いちいち客の顔を覚えているのだろうか。見渡すともう一人初老の男性店員がいるだけで、客はひとりもいない。かしこまりましたと微笑む店員はスマートに席へ案内してくれた。 席につくとメニューを手に取る。め、メニュー? どうみてもメニューの形をしているけれど、中身は数種の色とまた読めない文字が並んでいる。まるで生地を選ぶ色見本のようだ。 「あの、これって……」 「ご説明させていただきます」  続けて「申し遅れました。店長のヨピです、愛称ですけど」とカウンター越しに挨拶された。 「ご希望があれば一通りのお飲み物や軽食はお出ししますが、メインはKopfkinoです」 「コップ、フキーノ?」  駄洒落かと思いきや、そうではないらしい。 「赤ん坊はどんな感情を持っていると思いますか?」 「赤ちゃん? ええと……悲しい、とか?」  するとヨピさんはピースサインをする。 「快か不快か。二つしか知りません。それを示すには大人しくするか泣くか、二択で十分なんです」 「なるほど、たしかに」  話していると、初老の店員がお冷やとおしぼりを持ってきた。お互いに軽く会釈する。
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