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かしこまりました、と丁寧にお辞儀をしてヨピさんは準備を始めた。しばらくして運ばれてきたのはトレーにのったティーポットとマグカップ、その中に差し込まれていたのは竜胆のように頭を垂れた白い造花だった。
マグカップなんて珍しいと思ったけど造花が倒れないようにってことかな。わざわざ聞くほどでもない疑問を自己解決して飲み方を尋ねる。
「ティーポットには二杯分のお湯が入っています。そこに造花を挿して花が開いたら飲み頃です。マグカップに注いでお飲みください」
ご自由に、といった目配せでヨピさんは奥へ行ってしまった。想像よりもわずかに重いティーポットの蓋を開けて、マグカップに入っていた造花を挿す。じんわりと水分を染みこんでいく様子を見ているのは面白いし、茎もだんだんと色づいて本物そっくりになる。
きれい。しっとりと咲き始めた造花の竜胆からは甘い香りがした。花が咲いたら飲み頃、蓋をしてゆっくりと注ぐ。造花は白いままだけど真っ赤な花びらをちぎって煮詰めて、それを濾した濃厚な一滴が広がるような香りが立つ。
両手で持ったマグカップからは、じめつく身体にストレートな温かさが伝わる。目を閉じて一口含めば甘みと酸味の絡まりが舌に溶けていく。気分はすっかり青空広がる日曜日の午後のよう。
「おいしい」
自然と口から溢れた。辺りも静かに感じる。いや、本当に静かだ。はたと瞼を開く。
「ここは――」
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